私たちの取り組む課題



紛争や深刻な人権侵害、独裁政権などで故郷を追われる人の数が、過去最大の1億2000万人に達した世界。
そのうち、国外に逃れている難民が約5千万人。その約73%が開発課題を抱える低・中所得国に滞在しています。
その多くは、修学や就労などの機会から排除され、人身売買や違法的に安く危険な肉体労働、性的搾取、児童婚などのリスクに晒されながら、長期化する避難生活を送ります。
トランプ政権になったアメリカをはじめとして、右派政治が台頭しはじめている先進国では、かつて行われていた政府主導での難民受け入れを停止・もしくは縮小する傾向が徐々に強くなり、世界各地で多くの難民が不安定な法的地位で、修学や就労の機会、移動の自由を制限され、将来の展望を描けない生活を送っています。
その顕著な例でもあり、世界最大の人道危機のひとつとして国際社会からも注目を集める「ロヒンギャ難民危機」。
ロヒンギャの人々はもともと住んでいたミャンマーでも国籍が認められず、ミャンマー国軍などによる度重なる大規模な虐殺や村の焼き討ち、レイプなどで、百万人を超える人々が隣国バングラデシュに逃れてきました。
① ロヒンギャ難民の背景について
元々はミャンマー西部を中心に暮らすイスラム系少数民族 。ミャンマー政府は1982年の国籍法で国籍を認めず、公的な教育機会が認められないなどの迫害を受けてきました。文字をもたない「ロヒンギャ語」を話し、多くが代々、農業や漁業を営んで生活してきました。1991年や2017年に国軍などによる大規模な虐殺や村の焼き討ちがあり、現在130万人を超えるロヒンギャ難民が隣国バングラデシュに避難しています。国連やヒューマンライツ・ウォッチは、この迫害を「民族浄化」と位置づけ、重大な人道危機と警鐘を鳴らしています。
② ロヒンギャ難民の現状について
ミャンマーでの迫害を逃れたロヒンギャの多くが、現在もバングラデシュのコックスバザール県の難民キャンプで暮らしています。ここでのロヒンギャ難民は、バングラデシュの公用語であるベンガル語での教育が認められていないことに加えて、バングラデシュ政府が認証する教育過程に就学することも、働くことも許可されておらず、難民キャンプを出ることさえ容易ではありません。またミャンマー政府は依然としてロヒンギャへの国籍付与を認めておらず、帰還の見通しも立たないまま、彼らの大多数は「無国籍」の状態に置かれています。加えて、アメリカの援助減額によりキャンプ内での食糧配給が減り生きていくのも困難な状況にあります。
③ ロヒンギャ難民の可能性について
上記の状況にもかかわらずコックスバザール県の難民キャンプでは、国連機関や国内外のNGOの尽力によって、ミャンマーや英国などのカリキュラムに沿った教育が、ビルマ語や英語によって実施されており、バングラデシュ政府の認証がない中でも、高校相当まで修学できる環境ができつつあります。また国連機関が提供する農業や裁縫、機械修理など職業訓練校での実践的なスキル研修や、アメリカの高等教育機関が現地NGOや国連機関と連携し、分析的思考やデジタルリテラシー、チームでのプロジェクトワークなど、英語でソフトスキルを鍛えるプログラムも提供されており、多岐にわたる育成機会が、限られた数ですが提供されています。それらに参加している若者たちは意欲的で、将来のビジョンやなりたい職業などを溌剌と語る姿は夢にあふれています。しかし彼らは口を揃えて「難民キャンプで自分の将来は描けない」と話し、外の機会を求めていました。
一方、日本に目を向けると、少子高齢化が進み、さまざまな業種の人材不足が深刻化しています。
農業や介護、建設といった産業の人手不足への対応として、2019年に在留資格「特定技能1号」及び「特定技能2号」が創設され、DX化などによる生産性の向上や、女性やシニア層などの国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材不足が深刻な産業上の分野に対し、即戦力となる外国人の受け入れが始まりましたが、これまで十分に活用されていません。(2029年までの116万5千人の目標に対して、2025年5月末現在では32万4千人のみ)
2025年8月29日に厚労省が発表した『令和6年 外国人雇用実態調査』によると、外国人労働者数は前年から22万人増えており、事業者が外国人労働者を雇用する理由(複数回答)としては、「労働力不足の解消・緩和のため」が最も多く69.0%、次いで「日本人と同等またはそれ以上の活躍を期待して」が54.7%という調査結果となりました。
昨今の参議院選での外国人政策へのさまざまな声が表面化しつつも、雇用の現場での外国人労働者の受け入れは、世論に左右されつつも今後も増加することが予想されます。
なぜこの課題に取り組むか

Mobility for Humanityでは、世界の難民の人たちと日本の地域・産業が豊かな未来をともに構築していくことができる「道」を確立すべく、バングラデシュのコックスバザール難民キャンプにくらすロヒンギャの若者たちや現地のNGO・NPO、国内外の教育機関、国連機関、政府、自治体、企業、市民団体などと連携して、アジア・日本初の「難民就労パスウェイ」を実証しようとしています。
難民キャンプなどに留め置かれた若者たちに、日本語教育や日本で暮らし働く準備の研修を提供し、安全な国際間移動と、「特定技能制度」を活用した日本での就労・キャリア形成の機会を提供し、地域での産業振興と多文化共生を後押しします。
バングラデシュのコックスバザール難民キャンプにいるロヒンギャ難民10名程度の受け入れからモデル事業を開始。
設立から4年後には年間100名のロヒンギャの若者を、特定技能制度を活用して、適正かつ公平に日本に受け入れる体制と事業モデルを構築します。
また特定技能制度の課題としてあげられる「特定技能2号」へのステップアップや、地域コミュニティでの包摂に関しても、定住から逆算したキャリア伴走や、地域の多様なステークホルダーを巻き込みながら行う定住サポートを通じて、難民に留まらず、外国人労働者と日本の地域産業・社会の互恵的かつ持続可能な共生モデルの構築への波及を目指します。
支援金の使い道



時間がかかるキャンプ内での教育事業やその後の国際間移動に、大切に使わせていただきます。
- 日本語教育(日本語教師謝金、キャンプ内設備使用、教材開発、教科書など)
- 技能試験受験(試験対策コンテンツ開発、学習アプリ使用料、受験会場への移動など)
- 関係各所との調整や連携業務を担うスタッフ人件費(現地NGO、米国教育機関、国連機関、日本政府、日本事業パートナーなど)
- 現地出張(航空券、宿泊、移動など)