
Purpose


背景
シリアでは、2011年に始まった紛争により、物的・心理的な深刻な損害を被っており、それが復興を阻害する大きな要因の一つとなっています。とりわけ心理的な損害に関しては、長期にわたる避難生活や、教育機関の破壊、家庭教育の断絶などにより、教育・養育が十分に施されてこなかったことが大きな問題として指摘されています。
このような教育・養育環境の悪化は、社会生活にも影響を及ぼしており、労働意欲や職業意識の低下、公共道徳の未成熟に起因する汚職や犯罪の温床ともなっているとも言われます。
2024年の体制転換を受け、シリアでは欧米諸国や周辺国との経済関係が再び活性化しつつあり、これまでの人道支援に代わって本格的な復興支援の拡大が期待されています。
しかし、こうした物的支援の拡充がそのまま復興の成果につながるとは限りません。なぜなら、物的支援を真に復興の成果として結実させるには、それを効果的に活用し得る人材=マンパワーの育成が不可欠だからです。
私たちが果たし得る役割
こうした現状において、日本文化が果たし得る役割は非常に大きいと考えられます。周知のとおり、日本は第二次世界大戦や度重なる自然災害による甚大な被害を乗り越え、幾度となく復興を実現してきました。その背景には、単に経済力や技術力、あるいは諸外国からの支援があったからではなく、それらの物的資源を具体的成果へと転換する基盤として、公共道徳観や職業・教育倫理が育まれ、維持されてきたという事実があります。
実際に日本は、すでに政府開発援助(ODA)の枠組みの中で、エジプトや東南アジア諸国において学校教育、特に課外活動の分野における技術移転を実施し、高い評価を得ています。
しかし、シリアに関して言えば、こうした政府主導および民間主導の技術移転が本格化するまでには、一定の時間を要すると予想されています。
とはいえ、現在もシリア国内において復興は緩やかながら着実に進展しており、このような状況下では、政府でも民間でもない「第三の主体」による、復興の本格化を見据えた支援が必要とされています。
児童教育・家庭教育に関するワークショップ
これらを踏まえ、NPO法人「シリアの友ネットワーク」と、そのパートナーであるシリアの現地法人「日本・世界シリアの友財団」は、ダマスカス近郊のジャルマーナー市で開講している日本語教室に加えて、「人形劇制作・操演ワークショップ」を開設しました。
日本では近代以降、国民意識や公共道徳意識の形成を目的として、早期教育段階における多様な取り組みがなされてきました。その一例が、児童向け童話の制作と普及です。
こうした作品群は、示唆に富んだ教訓や、調和・協力といった社会的価値観、個人の社会的役割などを物語として体現しています。
この事業では、日本の童話・昔話の翻訳や、それを題材とした演劇ワークショップを児童と保護者に向けて開催し、日本の事例を参照しつつ、シリアにおける社会的調和と相互扶助の理念の育成を目指します。
ワークショップは全15回、各回2時間半のプログラムで、対象は14歳以上の青少年、参加費は無料です。講師は、人形制作・操演指導をイーマーン・ウマルさん、演技指導を女優のタマードゥル・ガーニムさんが担当しています。
Past Activities


第1回のワークショップは7月31日に開講され、今回は18名が参加登録しています。そのうち16名が14歳以上で、9歳と10歳の子どもが3名含まれています。
参加者は日本の童話を題材に人形を制作し、ワークショップの成果として上演を行う予定です。
Necessary expenses of the business
ダマスカスでの人形劇制作・操演ワークショップの運営にかかる経費の内訳は以下の通りです。
〇人形製作、舞台・装飾デザイン、演出等にかかる専門家への謝金: 6,759,000 SYP(112,650円)
〇公演当日の日本語朗読者への謝金: 315,000 SYP(5,250円)
〇人形の製作材料費: 1,062,000 SYP(17,700円)
〇サポート・スタッフ費用: 1,080,000 SYP(18,000円)
〇会場費および光熱費: 3,582,000 SYP(59,700円)
合計: 12,798,000 SYP(213,300円)
※為替レート: 1JPY ≒ 60SYP(ウェスタンユニオン・レート、2025年6月現在)