応援メッセージ:大池 明館長 海とくらしの史料館 館長
2026/5/20 10:00

応援メッセージ
鳥取県境港市にある「海とくらしの史料館」で館長をしております大池明です。
境港は日本海側最大の港であるとともに、水木しげる生誕の地で「妖怪と魚のまち」として年間300万人の観光客が訪れます。
そこに佇む「海とくらしの史料館」は、明治時代に建てられた酒蔵を改修した民俗資料館で、700種類4000体の魚のはく製を展示しており、クロマグロやマンボウ、ホホジロザメにリュウグウノツカイなどの大型はく製に加え、「ハリセンボン通り」という天井を300体のハリセンボンで覆ったトンネルもあります。さらに、刺網漁船を一艘まるごと館内にいれており、乗船をすることができます。
しかし、私が館長になった10年前は、来館者が減りその対策が求められました。そこで毎年春に「マンボウ祭(まつり)」を企画し、マンボウたこ焼き(タコの代わりにマンボウの腸がはいっている)の試食会を開催しました。そして、図書館でサメのはく製を展示する「巡回サメ展」で近隣の広報活動をおこない、入館者を維持できました。
これらの展示や企画は普段より、たくさんのお客様に楽しんでいただいておりますが、改修後30年が経過したため、令和11年にリニューアルオープンをすることがきまりました。
展示をしているはく製は、境港で漁業に従事していた、香川県出身の故種正幸氏によって美術工芸として作製されました。表面にはホウ酸アルミニウムウィスカーという金属の強化剤が塗布されており、今日でも展示に耐える美しさと強度を有しています。しかし、はく製である以上、永遠にその美しさと強度をたもつことはできません。
そこで、始まったのが、日本一大きなマンボウのはく製「チョボリン」のフォトグラメトリーによる3Dモデルデータ化でした。
マンボウは江戸時代の絵図には異魚という分類で複数が残っています。おそらく当時人々もマンボウを楽しんでおられたことでしょう。そして、これから先の人たちもマンボウを楽しんでいただけるに違いないと考え選定しました。
3Dモデルデータとして保管されることで、本体には及ばずとも、大きさや質感が伝わる精度なので、災害などの不慮の事態に際し、資料が損傷したとしてもデータとして存在することは大きな保険になります。また、データとして存在をするので、所在を選びません。このデータを基にしてテレビや映画に活用をされました。
そして、次に実施したのは「サイレント閉館調査プロジェクト」の先行的な取り組みとして始まった、海とくらしの史料館デジタル化計画です。
今度はマンボウを中心した最も多くのはく製を展示している展示室全体をフォトグラメトリーにより保管するプロジェクトで、境港市の承認のもと実施に至りました。
ご存じかとおもいますが、資料を保存するには予算が必要です。当館の魚のはく製の中にはいくつか珍しいものがありますが、おおよそのはく製はそう珍しい資料ではありません。しかし、これらを一堂に展示をすることは、海への興味につながると考えています。
しかし、不慮の事態が起こったとき、予算が枯渇して閉館を余儀なくされたとき、魚のはく製たちはどうなるのでしょう?紛失したり、ばら売りされたりするのでしょうか?
いま、この文章をご覧の皆様は、関係者の方ですか?まったく関係のない方ですか?
私が考えているのは、魚のはく製をデジタルデータ資料として残し、それを利用くださる皆様がおられることが、不慮の事態に遭遇した「魚のはく製たち」の一縷の望みになるのではないかと考えています。もっとも、しばらく先の話になることを切に望んでおりますが・・・
私は先日、完成した海とくらしの史料館の3Dモデルデータを見ました。クオリティに声がもれましたが、感動をしたわけではありません。なぜなら、私は明日もここの床にモップをかけ、ショーケースのガラスを拭かなければならないと、3Dモデルデータをみながら思ったからです。そう思える臨場感がありました。
しかし、3Dモデルデータの真価が問われるのは明日ではありません。もっともっと先です。皆様の子孫やそのお知り合いが、海とくらしの史料館の3Dモデルデータの中を歩いて魚のはく製を楽しんだり、論文のため頭を抱えながら利用してくださると思うと、明日も海とくらしの史料館で働く、私の楽しさが大きくならざるをえないのです。








