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性規範と排除―「セックスワークにも給付金を」訴訟を事例に―

2024/12/18 17:07

性規範と排除―「セックスワークにも給付金を」訴訟を事例に―のメインビジュアル

掲載日:2024年12月18日  執筆者:浅野恵里奈

今回のレポートでは、日本におけるセックスワークの現状と、セックスワーカーが直面している差別および排除の問題を「セックスワークにも給付金を」訴訟を取り上げて紹介していきます。

日本の性産業と法規制

日本の性産業は世界一多様と言われています。ポルノグラフィ、セクキャバ、ピンサロ、ヘルス、ソープ、M性感、SMクラブ、AVなどなど。さらには、店舗やワーカーによってサービス内容が異なったり、パパ活や援助交際などもあります。現在の日本のセックスワークに対する制度は一部犯罪化にあたり、売春場所の提供や勧誘に対して罰則を与える体制になっています。国際レベルでのセックスワークに対する法規制カテゴリーの詳細については、以前掲載したレポート「非犯罪化から20年のアオテアロアで」をご覧ください。

「非犯罪化から20年のアオテアロアで」:

https://syncable.biz/campaign/6808/report/10571#campaign-tabs

日本の性産業を直接的に規制している法令は、売春防止法、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)、その他に地方行政ごとの条例等です。日本では、売春行為自体は禁止されていますが、風営法で規定されているソープランドと膣内性交を伴わない性交類似行為の業種、既定の基準を満たせば営業することが可能となっています。

ですが、風営法を遵守している営業であっても、国は性産業を否定的な存在として扱っています。国は性的サービスを健全化の見込めないものであるとし、性産業自体を公的に許可、認めることはできないと主張しています。現在、風営法において採用されている、性産業の届け出制度は営業許可ではなく、性産業の実態を把握するためのシステムであると警察庁は述べています。これらのことを取り扱った最近の事例が、2022年6月に始まった「セックスワークにも給付金を」訴訟です。

「セックスワークにも給付金を」訴訟

「セックスワークにも給付金を」訴訟とは、2022年6月に行われた派遣型風俗店を営む会社が国を相手に起こした裁判のことです。この裁判では、「性風俗関連特殊営業は、性を売り物にする本質的に不健全な営業であり、社会一般の道徳観念に反するものであるため、新型コロナウィルス感染症緊急経済対策である持続化給付金の対象外とすることは合憲」と判断されました。この判決を受け、原告は上告し、2023年10月に東京高裁で裁判が行われましたが結果は一審判決を踏襲する結果となりました(東京地判令和4年6月30日(令和2年(行ウ))455号,東京高判令和5年7月4日(行コ)第198号)。

ですが、裁判および答弁書において、給付金不支給の根拠となった性的道義観念、つまり性規範に関する詳細な説明はされませんでした。そのため、原告側は「被告国も主張していない性的道義観念という非常に抽象的、主観的な事由を理由とする判決であって、恣意的にどのような意味合いにもとれるような判示は、これまで前例がなく、極めて不当である」と批判的なコメントを出しています(CALL4「セックスワークにも給付金を」訴訟ウェブサイト)。もちろん、この判決が不支給の対象としているのは性風俗営関連特殊営業の届け出をしている事業者のみなので、性風俗店と業務委託関係にある性風俗営関連特殊営業の届け出を行っていないセックスワーカーは対象ではありません。ですが、性風俗関連特殊営業という特定の職業を国民の多くが共有しているという性規範にそぐわないという理由だけで、国による経済支援から排除するということはセックスワーカーへの差別を助長することは明らかでしょう。

性規範とは何を指しているのか?

ここで、少し性規範について考えてみたいと思います。まず、規範という言葉からみていくと、規範とは、ある集団や社会における、人々を従わせるルール体系といえます。具体的には、公的な規範である法律や条例から公的ではない道徳的な価値観や慣習などがそれにあたるでしょう。そして、特に性に関することや性のあり方についての規範が性規範といえます。何が正しい性のあり方であり、何が正しくない性のあり方であるかを提示するのです。

今回のレポートで取り上げる「セックスワークにも給付金を訴訟」の判決文では、「性行為や性交類似行為は極めて親密かつ特殊な関係性のなかにおいて非公然と行われるべきである」(東京地判令和4年6月30日(令和2年(行ウ)455号)と記載されています。このような性規範に反しているため、セックスワークは不健全な存在ということになります。そして、性的道義観念の引用先として、昭和59年と平成10年に行われた風営法修正案についての国会審議が示されています。それらの議論から国側が提示する性規範というものを整理して、紹介したいと思います。

まず、昭和59年風営法改正における審議から引用された、当時の警察庁の担当者であった警察庁刑事局保安部長鈴木良一の言葉です。 

「風俗関連営業というのはいわゆる性を売り物にした営業でございまして、これは公に許可をして認知をするという性格のものではないというふうに考えておるわけでございます。(中略)営業を営む人的な事由によってその内容が左右されることは比較的少ないというふうに考えられるわけでございまして、欠格事由を設けてそれによって営業の健全化を図るとか業務の適正化をやっていくというものにちょっとなじまないということでございます。そうでなくて、むしろ我々の方は、必要な規制を行いまして、それに違反をすれば厳正な措置をとっていくという方が望ましいのではないかという形で臨むことにしたものでございます。」「風俗関連営業と申しますのは、その行為から規制をするのになかなかなじまないものではないかなという感じを持っておるわけでございます。(中略)そういう営業者なり従業員が行います行為そのものを対象にするのにはなじまないのではないか。したがいまして、構造をいろいろ考えてみましても、そこで行われます行為というものが構造を変えたためによくなると期待できるという形にはなかなかならないのではないかという感じを持っておる、そういう種類の営業ではなかろうかと考えておるわけでございます。したがいまして、(中略)こういう営業形態に対しましては,やはり厳しい遵守事項を設けまして、それに違反するという形のものに対しまして厳正に対処するということが適当ではなかろうか、かように考えておるわけでございます。」(第101回国会衆議院地方行政委員会第17号昭和59年6月21日)

つまり、性産業は性を売り物にした営業であり、営業する者がどんな者であろうと、そこで行われている性的サービスは健全化の見込めないものであるため、性産業自体を公的に許可し、認めることはできないということを述べています。そのため、警察庁は性産業に対し必要な規制を設け、それに違反した場合に厳正に対処していく方法を採用し、性産業の実態を把握するための届け出制度だと主張しているのです。これが根本的に性産業は健全化の見込めない不健全な営業とする理由ということになります。

くわえて、性産業というものは、新風俗(当時のファッションヘルスやノーパン喫茶等)のように、新しいサービス形態や内容が規制にかかる前に儲けようという傾向があるため、自主規制に向いていない健全化が見込めない不健全な産業だとも述べられていました。また、当時の風営法改正の目的における主要な課題は、青少年の非行問題と社会における性産業の行き過ぎた多様化の改善であったため、性産業の増加によって、善良な風俗と清浄な風俗環境の保持及び、少年の健全な育成の妨げとなるという主張が繰り返しされています。

「少年問題というのは家庭の問題であり学校の問題であり社会の問題であると思います。(中略)先ほども申しましたように大変行き過ぎた社会環境がありまして、それが少年の非行の増加の一因になっておることも間違いない事実でございまして、私どもは風俗に対する責任、社会のそういう環境に対する責任を負っているわけでございますから、そういう面から責めを果たしていく必要があると考えて、必要最小限度の対策を立てていこう,こういうふうに考えて法改正を提出したという経過になっておるわけでございます。」(第101回国会衆議院地方行政委員会第17号昭和59年6月21日)

ですが、この性産業の増加と青少年の非行問題を結び付ける具体的な根拠は議論の中において示されてはいません。答弁を行なっている議員の応答においても、性産業の増加と青少年の非行問題の関連性を指摘するものがありましたが、最終的には、警察庁担当者の行き過ぎた社会環境が青少年非行増加の一因となっているという主張に納得し、それを支持する形になっていました。

これに関連して、行き過ぎた性産業の多様化が性感染症の蔓延等の公的不利益を招くという主張も出席委員から出ていました。これは、性産業に従事するコンパニオンの9割が性感染症に感染しているという、性産業の多様化と性感染症の蔓延を結び付けるメディアの情報を根拠に述べられたものでした。ですが、詳しい出典は述べられていませんでした。昭和59年の国会審議における性規範に関連する事項を整理すると、性産業は公に許可をして認知できない不健全な存在であり健全化の見込めるものではない、性産業の多様化及び増加は少年の健全な育成の妨げや社会衛生上のリスクとなる、つまり、性風俗は善良の風俗や清浄な風俗環境を害する傾向にあると考えられていたのです。

次に、裁判において国側が提示したもう一つの根拠である平成10年の風営法改正案に関する国会審議も確認します。裁判において引用されたのは、当時警察庁生活安全局長である泉幸伸の言葉です。

「今回の改正で性風俗特殊営業につきましては、今委員御指摘のとおり、性を売り物とする本質的に不健全な営業で、風俗営業について今申しましたように、業務の適正化あるいは営業の健全化というのは本来的になじまない営業であります。このような営業について、公の機関がその営業を営むことを禁止の解除という形での許可という形で公認することは不適当であると考えて、届け出制にし、実態を把握し、また風俗営業に比べて営業禁止区域等極めて厳しい規制をもって臨むという立て方をしておるものでございます。」(第142回国会衆議院地方行政委員会第13号平成10年4月28日)

内容としては、先ほどの昭和59年の鈴木良一のものとほぼ同様のものとなっており、性産業は性を売りものにする本質的に不健全な営業であるとともに、健全化の見込めないものであるため、その現状を把握するため届け出制を採用するというものでした。また、青少年の非行問題につながるという主張と売春事犯やわいせつ事犯に結びつきやすいというという主張もみられました。

「現行法の風俗関連営業、個室つき浴場、ストリップ劇場、アダルトショップなどは、性に関する役務、物品を提供することをその営業の本質としておりまして、性を直接売り物とし、売春事犯やわいせつ事犯に結びつきやすい、本来的に不健全な営業である。したがいまして業務の適正化あるいは営業の健全化になじまない営業であるという考えでございます。」(第142回国会衆議院地方行政委員会第13号平成10年4月28日)

平成10年の国会審議における性規範に関連する事項をまとめると、性産業は公に扱うことのできない不健全な存在である、青少年の健全な育成の妨害や売春などの犯罪の助長になるという点があげられていました。昭和59年と平成10年の風営法改正における議論から整理した性規範に関する事項より、次のような事柄が性規範を指すのではないかと考えます。性行為やそれに類似する行為は非公然の場で行われるべきである。そのため、性行為を売りものとして市場で取り扱う行為は性規範に反する。くわえて、青少年の育成に悪影響を及ぼす可能性や犯罪の助長、社会衛生上のリスクをもたらしかねない性産業は性規範に反する。ということは、そのような善良の風俗や清浄な風俗環境を害さないという内容も性規範に含まれているといえるのではないでしょうか。社会の安定のために性規範は存在している。このような内容が「セックスワークにも給付金を訴訟」において国側が提示した「性行為や性交類似行為は極めて親密かつ特殊な関係性のなかにおいて非公然と行われるべきである」という性規範の示すところだといえます。

写真:ニュージーランドのセックスワーカー支援や権利運動を行っているNZPCのオフィスで撮影したTシャツの写真。

まとめ

今回のレポートでは、セックスワーカーへの差別を助長しかねない性規範について紹介しました。現在の社会では、「異性愛、夫婦間のセックス、子作りのためのセックス」などを正しい性のあり方、「セックスワーク、同性愛、家庭外や楽しみのためのセックス」などを正しくない性のあり方だと、なとなく思う人々が多いのではないでしょうか。ですが、その性のあり方/性規範というものが、本当に社会一般に共有されているのか。共有されているのだとしても、特定の人々を逸脱者として扱い、社会から排除しようとすることは必要なことなのか。第一に、性規範を作り出しているのはだれなのか。当たり前とされていることこそ、批判的に見直すことが必要なのではないでしょうか。

性産業は多くの国と地域に存在し、様々な人々が働いています。自ら選択して働いている人もいるし、そうじゃない人もいます。ですが、セックスワーカーは、皆さんと同じ社会で生きています。そこに存在しているものをないものとせず、事実を認識するところから始めて頂けると嬉しいです。

<参考資料・文献>

浅野恵里奈(2024)『セックスワークにおける差別構造をフーコーの議論から読み解く』「横浜国際社会科学研究」29巻, 1号, p. 81-92.

SWASH(2018)『セックスワークスタディーズ』日本評論社.

藤目ゆき(1997)「性の歴史学」不二出版.

東京新聞(2022)「性風俗店へのコロナ給付金不支給は「合憲」原告ら怒りと落胆「差別を助長する」判決 東京地裁」https://www.tokyo-np.co.jp/article/186663

東京地判令和4年6月30日裁判所(令和2年(行ウ)455号

東京高判令和5年7月4日(行コ)第198号

「甲115の1:世論調査のデータ」https://www.call4.jp/file/pdf/202304/b81ed49cd910b3a17e8233ecd5b1f6a7.pdf

甲115の1:世論調査Aの報告書https://www.call4.jp/file/pdf/202304/6f8010fe5a174d8a7da6ee091ac65623.pdf

「甲116:世論調査B」https://www.call4.jp/file/pdf/202304/b4f74761d0f5fb16edaece63a21e5828.pdf

CALL4「セックスワークにも給付金を」訴訟ウェブサイトhttps://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000064#case_tab

第101回国会衆議院地方行政委員会第17号昭和59年6月21日

第142回国会衆議院地方行政委員会第13号平成10年4月28日


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代表:要友紀子

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