本シリーズ「公害PFOA」の連載開始から2年半が経ちました。
報じてきたのは、ダイキン工業による大阪でのPFOA汚染です。ダイキンは、大阪府摂津市にある淀川製作所で半世紀にわたりPFOAを製造・使用し、周辺地域を汚染してきました。
ダイキンは2000年代には汚染の実態を掴んでいましたが、汚染の事実を隠蔽。地元自治体の摂津市と、同社を監督する立場にある大阪府も隠蔽に加担しました。企業と行政のもたれ合いによって、被害住民の数と汚染範囲は計り知れない程に膨らんでいます。
Tansaの追及に、ダイキンは「自社が汚染源の一つであることは間違いない」と初めて認めました。地元議会や国会はTansaの記事をもとに、PFOA汚染への対応について審議を重ねました。
その一方で、私は次第にある疑問を抱くようになりました。「PFOAは、最終的にどこへ行くのか? 」。
PFOAは国内で50年以上もの間、世界8大メーカーのダイキンはもちろん、多くの企業が製造・使用してきました。
しかもPFOAの残留性は極めて高いです。「フォーエバー・ケミカル(永遠の化学物質)」と呼ばれるほど分解されにくい物質で、完全に分解させるには1,100度以上の超高温で燃やさなければなりません。しかし対応できる施設は国内で数えるほどしかありません。
分解処理をした上で廃棄していなければ、今でも多くのPFOAが国内のどこかに存在することになります。淀川製作所周辺の汚染をもたらしているPFOAは、ごく一部なのです。
「PFOAの後始末は、製造企業だけでは手に負えない状況になっているのではないか? 」
その矢先、事件が起きました。
2023年秋、岡山県吉備中央町の水道水から高濃度のPFOAが検出されました。国が定める目標値の28倍に上る値です。
1,000人を超える町民が、少なくとも3年間、日常的に飲用していました。先行して血液検査を受けた住民27人全員から高濃度のPFOAが検出されました。この中には2歳の子どもも含まれています。
しかし、この町にPFOA製造工場は存在しないーー。原因は、企業が町外から持ち込んだPFOA含有廃棄物でした。
Tansaは新たに、本シリーズ「岡山県・吉備中央編」を始めます。
長期にわたる取材のためのサポートをお願いいたします。
ストーリー
【Tansaについて】
◉探査報道に特化した、非営利・独立メディアです
Tansaは「風穴をあけるニュース」を届ける報道機関です。日の当たりにくい問題に目を向け、手間ひまをかけた「探査報道」で真実を明らかにします。
当局発表を右から左に流す「記者クラブ報道」とは違い、暴露しなければ永遠に伏せられる事実を、独自取材で丁寧に掘り起こします。
問題の構造に切り込み、犠牲者や被害者の置かれている状況を変え、将来の被害を防ぐのが探査報道の目的だからです。
◉Tansaは、国際ニューズルームです
ジャーナリズムのグローバルスタンダードである、世界規模での連携を重視します。探査報道が挑む国家権力や企業は、すでに国境を越えて広く活動しているからです。
Tansaは2017年、探査ジャーナリズム組織でつくる国際的アソシエーション「探査ジャーナリズム世界ネットワーク(GIJN)」(2024年5月現在、91カ国250組織が加盟)に国内で初めて加盟しました。現在も、国内唯一の報道機関です。
2024年5月には、同月発足したアジアの探査報道ネットワーク「Asian Dispatch」に初期メンバーとして加盟しました。日本から唯一の参加です。
【シリーズ「公害PFOA」について】
◉報道の成果
本連載は2021年11月にスタートし、これまでに48本の記事を出してきました(2024年5月現在)。ダイキンの内部文書を手に入れ、大量のPFOA敷地外排出の実態を暴いたり、市民ではなくダイキンに寄り添う行政を追及したりしています。また、米国のPFOA汚染を明らかにしたロバート・ビロット弁護士とも協力し、取材を進めてきました。
Tansaの記事が基となり、国会や地方議会でPFOA汚染に関する審議がなされたり、住民がTansaの記事を引用して署名キャンペーンを立ち上げたりしています。少しずつではありますが、50年以上伏せられてきた事実が明らかになり、事態が動きつつあります。
◉報道への評価
2022年 一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ「PEPジャーナリズム大賞&課題発見部門賞」
2023年 メディア・アンビシャス「2022年メディア・アンビシャス大賞【活字部門】優秀賞」
◉記事を読む
Tansaサイト https://tansajp.org/investigativejournal_category/pfoa/
雑誌『週刊金曜日』で連載中
【必要な資金について】
◉なぜ資金が必要なのか
Tansaでは、あらゆる権力から独立した立場を守るために、企業からの広告料を受け付けていません。また、経済状況に関わらず誰でも探査報道にアクセスできる社会をめざし、読者から購読料もとっていません。Tansaの主な収入源は、個人からの寄付と財団などからの助成金です。しかし、それぞれまだ脆弱です。
Tansaは、徹底した取材による事実の発掘が評価され、これまでに「報道の自由推進省賞(日本外国特派員協会)」や「貧困ジャーナリズム大賞(反貧困ネットワーク)」、「ジャーナリズムXアワード大賞(ジャーナリズム支援市民基金)」などを受賞しています。
一方で、Tansaは小さな報道機関です。今回のテーマである、PFOAを製造・使用していた企業や政府・行政が巨象だとすれば、Tansaは小さな蟻です。もし訴訟が起きてTansaが負けてしまうと、賠償金は払えないでしょう。
アリンコがゾウに立ち向かうには、緻密な取材が必要です。何が起きても負けないよう、手間ひまを惜しまず、費用を削らず、決定的な証拠を掴まねばなりません。そのための資金を皆さまにサポートいただきたいです。
◉予算の内訳
本シリーズの取材を進めるにあたり、日々の取材と並行して助成金探しを行ってきました。ところが、テーマに深く関係している経産省や環境省とかかわりのある助成元が多く、さらに大企業を相手にしたプロジェクトのため、申請すらできない助成金ばかりでした。
本問題に関心をもち、取材を応援してくださる市民の皆さまからのサポートを募ります。当面の目標金額は150万円です。(内訳は2024年5月現在)
一人一人の寄付が、事態を動かす報道の力になります。
寄付は1000円から可能です。ご協力をよろしくお願いいたします。