私たちの取り組む課題
日本の海岸線に広がっていた干潟の4割がすでに消えてしまったといいます。その中で奇跡的に残されていたのが豊前海の広大な前浜干潟でした。そのほぼ中央に位置するのが、私たちが1999年に名前をつけた「中津干潟」です。取り組んでいるのはこの中津干潟の保全活動になります。
具体的には、会のスローガンである「生きもの元気、子ども元気、漁師さんも元気な中津干潟を100年後も…」の実現です。このスローガンを裏返すと現在の課題が見えてきます。
生きもの元気
干潟には開発の動きが常につきまといます。奇跡的に残されている自然の素晴らしさを広く理解してもうことなしには「生きもの元気」は実現できません。開発の是非を問う前にきちんと自然の価値を問う必要があると考えます。そのために、科学的な調査を行い、広く市民の皆様に知って頂く努力を行っています。
子どもも元気
子どもの自然体験が驚くほど少なくなっています。原因として親世代が自然の中で遊びそこから学ぶという体験が少ないことがあげられます。自然体験は、子どもの様々な発達によい影響があることが分かっています。自然体験をほとんどしないという連鎖を止めることが求められます。また、環境や自然科学を学びたい子どもたちに各種のワークショップや観察会を通して学びの場を提供しています。
漁師さんも元気
漁業再生は待ったなしです。魚離れを食い止め、多くの人々に地物のよさを知ってもらう機会を作っています。20年程前から海苔すき体験や蛸壺漁体験、魚食推進イベントなど様々なワークショップを通して、地元の魚介について知ってもらい、味わってもらう活動を続いています。
なぜこの課題に取り組むか
生物多様性の喪失は、ちょうど空を飛ぶ飛行機がの部品が一つ一つはずれて落下する様子に似ているといいます。小さな昆虫など取るに足らない生きもの見えても生態系全体ではとても重要な役割を持っていることもあります。そして、それが、重要な部品なのか、余り影響がないものなのかは容易に気づくことができません。ある日突然、重要な部品が外れて飛行機は墜落し、当たり前のように食卓に上っていた魚や貝が消えてしまっているなどということは決して珍しくないのです。さらに、その飛行機には、実は私たち自身も搭乗していることを知らなければなりません。
20年以上前に中津干潟の保全活動をはじめたころ干潟の自然について正しくその価値を評価してもらうために、そこでくらす生きものの目録をつくりました。調査の結果その3割あまりが絶滅危惧種などの希少種であることがわかりました。代表的なものとして、生きた化石カブトガニ、豊前海にしかほとんど生き残っていないアオギスをはじめ、ミドリシャミセンガイ、ナメクジウオなどがあげられます。また、地域の名前が付いたオオシンデンカワダンショウはサーフィンをすることで知られています。ここに示したのはほんの一部ですが、私たちは、命の箱舟とも言える中津干潟をできるだけそのままの形で未来の人々に伝えていきたいと考えています。
目の前にこのような希少生物がいっぱいくらす海がありながら、地域の子どもたちはその自然とふれあえる機会をほとんど持っていません。水辺に遊ぶ会では、小学生を中心に毎年2,000人程の子どもたちと干潟観察会を行うようになりましたが、その自然体験の少なさにいつも驚かされます。私たちは、自分たちが生活している地域の自然をもっと知ってもらい、心と体の成長の肥やしにしてもらいたいと考えています。
かつて干潟の漁業は、採貝業などは隆盛を極めました。でも現在ではアサリなど主要な貝類はほとんどとれなくなっています。干潟の海に一番近いところで生活しているのが漁師さんです。遠い昔から伝えられてきた生業ですが、今ものすごい勢いでその数が減っています。高齢化も進んでおり市民が「地物」の魚介を食べられなくなる日もそう遠くないと思います。経済的にも資源的にもサステイナブルな漁業ができるようお手伝いをしたいと考えています。
個々に示した問題は、中津干潟だけでなく全国的なものです。私たちは中津干潟というローカルなフィードを保全しながら、日本中の干潟環境について考え、情報を収集・発信していきたいと考えています。
寄付金の使い道
主に、スタッフの人件費などの基礎的経費に利用させていただきたいと思っています。行事や保全作業などについては、多くのボランティアの皆様のお力を借りたり、各種補助金・助成金へのチャレンジで対応できますが、全ての事業を回していくための人への投資がほとんどできていないのが現状です。次の時代を生きる若い人に事業を続けてもらいたいと考えていますが、経済的基盤が無ければそれもおぼつきません。会の活動は20年以上続いていることから、すでに地域にとって無くてはならないものとなっていると自負する部分もあります。ですが、継続、発展のためにはどうしてもさらなる資金が必要なのです。
もう一つは、ネイチャーセンター(干潟博物館)の建設です。何の後ろ盾も無い環境保全系の団体としては、身の丈に合わない目標かも知れませんが、なんとか実現したいと考えています。今は小さなプレハブ小屋のネイチャーセンターを海の目の前に設置しています。活動が広がりを見せる中、明らかに手狭になっています。
全国各地の大学の学生や研究者が集い、地域の子どもたちも自然科学を学び、漁師さんも気軽に相談できるそんなネイチャーセンターです。もちろん、広く市民の方々に来ていただいて古里の自然について対話に花を咲かせたいと思います。
正しく、より広く、そして深く、私たちが暮らしている自然について共に考えていく場としての役割を担わせて頂きたいと思っております。私たちは、これらの活動の先に、生きものと人々の幸せが待っていると信じます。