2014年12月に校内の図書館で始まった神奈川県立田奈高校の「ぴっかりカフェ」は10周年を迎えました。毎週木曜日にカフェを開き続け、この10年でカフェを利用した生徒は28,157名にも及びます。中退・卒業を支援の切れ目にせず、生徒たちの人生に寄り添い続けることを目指し、2023年度は延べ66名の中退・卒業生が利用しました。
この10年を支えてくださった多くの皆様に厚くお礼を申し上げます。毎年助成金を綱渡で獲得し、皆様からも寄付や物品の提供を受けたことで、なんとか続けてこられました。一方、10年間で助成金は獲得しつくし、もう民間では支え切れないと公的事業にしようと試みましたが、県の事業にはなれず、2025年度以降の予算の目処はたっていない状況です。しかし、せっかく全国に広がってきている校内居場所カフェであり、高校生たちに「出会った」責任を果たすためにも、校内居場所カフェの灯を消すことはできません。
次の10年も、その次の10年も、ぴっかりカフェが存在し、微力ながらも生徒たちの人生に”ぴっかり”の光を届けられるよう、校内居場所カフェが、日常に当たり前に存在し続ける未来を作るため、マンスリーサポーターを大募集いたします!
Story
ひきこもる手前の子どもたちに出会いたい
「ひきこもる手前の子どもたちに出会いたい」長年ひきこもりの若者の支援をしていた石井が、ひきこもる手前の”予防支援”の必要性を感じていた時、ご縁あって田奈高校に相談員として派遣されたのが2011年。そして2014年12月、ちょうど10年前にクラウドファンディングで市民の皆様から資金を募って、図書館でオープンしたのが「ぴっかりカフェ」でした。この10年間、夏休み等や学校の行事以外を除き、木曜日に毎週1回、地域のボランティアさんと一緒に校内居場所カフェを運営してきました。学校の図書館で、生徒にお菓子やジュースなどを提供し、おしゃべりをしたりボードゲームをして遊んだり・・ゆっくりと関係が紡がれ、大人と子どもの”信頼貯金”が貯まる中で、子どもたちのさまざまな不安や悩みに寄り添い、校内や地域の社会資源とつながることができる”居場所支援”が「校内居場所カフェ」です。
この10年で、校内居場所カフェの利用者数は28,157名になります。校内居場所カフェの中で発せられる何気ない会話や仕草から、生徒からの”微弱なSOS”をスタッフがキャッチして、家庭や交友関係、進路などの様々な悩み事に対応し学校に行けるようになったり、学校を中退・卒業した後も繋がり続け、生徒たちのセーフティーネットとして機能してきました。非日常のイベントでなく、日々の日常として校内居場所カフェが存在するからこそ、信頼関係が構築され、生徒たちにそっと寄り添うことができます。
校内居場所カフェを10年続けるために、毎年獲得できるかどうかわからない民間の助成金をなんとか獲得したり、皆様に様々なサポートをお願いしてきました。日本の小さな助成金市場で、応募できるものには全て応募してきたと言っても過言ではありません。校内居場所カフェの重要性と、民間で支えるのではなく公的な事業にする必要性についても声をあげてきました。今日の校内居場所カフェの広がりや、一部公的事業化したことは、パノラマのカフェが貢献してきた側面もあると思います。しかしながら、ぴっかりカフェは公的事業にはまだなっておりません。10周年を支えてくださった皆さんと共にお祝いしたい!そして次の10年もなんとかぴっかりカフェを続けて生徒たちをサポートしたいと強く願っています。
ぴっかりカフェ10周年のお祝いするとともに、校内居場所カフェの日常を支えるために、マンスリーサポーターになっていただけませんか?生徒たちを校内居場所カフェの”ぴっかり”の光で照らして人生をサポートできるよう、皆様からご支援いただけると嬉しいです。
10年のストーリー ぴっかりカフェが大事にしていること
「教員が疲れている」学校だった!校内居場所カフェが、学校を”カラフル”にする
中退・進路未決定者が多く、「教員が疲れている」学校だったと当時の校長先生は言います。生徒と対話すればするほど「教員だけでは無理」と痛感し、外部の力が必要と訴え、内閣府モデル事業で派遣されてきた相談員が石井でした。
ある先生は、石井が図書館で「価値観カード」を使っていろんな生徒とやりとりして、働く上で大切にしたいと生徒が思っている価値観を炙り出しているのを見て言いました。「従来の学校的なアプローチ以外に、子どもたちに色んな関わり方で支援をし、出口まで繋いでいく可能性があったことに気づいた」
閉鎖的・”モノトーン”な学校文化ではなく、外部も受け入れる”カラフル”な学校でないと、子どもたちの次の一歩・未来を支えきれない・・・カラフルな学校に変化する一つのきっかけが石井と校内居場所カフェだったのです。
金澤信之先生が石井を田奈高校に誘い、司書の松田ユリ子さんが、石井の希望する「図書館を使ったユースワーク」を受け入れたことから、ぴっかりカフェが始まりました。金澤さんはぴっかりカフェのアイデアと名付け親でもあります。
ジュースとお菓子、お味噌汁でお腹を満たすことは、活動の前提。
お昼休みに、お弁当を広げていない生徒たちが沢山いることに石井は気づきはじめました。そんな中、ボランティアさんがインスタントの味噌汁を持ってきて下さった時、腹ペコの子どもたちが味噌に対して具を何個もこっそり入れているのを目撃します。
「お腹が満たされてちょっとホッとすること、食べ物を食べながら何かやるというのは、人間として色々な活動をやる時の前提」と元田奈高校の校長先生も言いました。お腹が満たされて初めて、色んな活動が楽しめたり、話ができたりして、心が満たされます。今では、ボランティアさんが具沢山の味噌汁を毎回作って生徒に出してくださいます。中のお野菜も、ボランティアさんの家庭菜園で採れた新鮮な野菜たちです。
親でも先生でもない”第3の大人”は、「多様なロールモデル」
学校の先生のように評価・指導する立場でなもなく、地域の”ただの人”として付き合うことのできる大人がいることは、親・先生以外の大人を知らなかった生徒たちにとっては、多様なロールモデルになります。ある時、卒業生がこんなことを言いました。「間違っちゃいけないと思い続けて生きて来たんだよね。自分の周りにはそんな大人しかいなかったから。それで苦しくなっている時にぴっかりカフェに行ったら、マスターやボランティアさんが間違う大人だった。私はそれで救われたんだよね」
「ちゃんと就職しないと生きられない、と悩んでいたら、いろんな人から『世界一周した』とか『高校出てないけど』とか聞けて、考えが広がった」と話した生徒もいました。彼女は、音響のプロであるボランティアさんに出会ったことで、音声技術の会社に就職しました。
経験豊富なボランティアさんの生き方に、現実に出会うこと。凝り固まって自分を苦しめている考え方から生徒たちを解き放ち、違う見え方を見せてくれるのが”第3の大人”なのです。
文化資本のシェア
ぴっかりカフェでは、シャワーを浴びるように文化的な体験を提供する、”文化資本のシェア”を大事にしてきました。一見、無駄や「あそび」に見えることこそが、子ども若者の心にずっと残り続ける、文化資本(生きる力・ライフスキル)となるからです。逆に、それを持ち得ないことがハードルになることもあります。経済格差がそのまま経験格差になる日本において、色々な経験を体験することが叶わなかった子どもたちが、ぴっかりカフェには多くいます。浴衣を着ること、クリスマスケーキを作ったり食べたりすること、ギターを習って弾いてみること、手仕事や新しいゲームなどを体験してみること・・・。ボランティアさんが持ってきてくれる色んなお菓子や食べ物、話してくださることの一つ一つも文化的な体験です。
カフェでの出会いがセーフティーネットとなる
大人は信頼できない、とこれまでの経験の中で思っている子どもたちは沢山います。しかし、カフェで遊んだりおしゃべりしたりと一緒に日常を過ごす中で、徐々に大人たちと生徒たちの間に”信頼貯金”が溜まっていきます。”信頼貯金”があることで、生徒たちから滲み出てくる”微弱なSOS”をキャッチし、一緒に課題解決に向けて一歩を踏み出すことができたり、”信頼貯金”が生徒たちをカフェに定着させ、学校に行く支えになったりします。また、「どろっぴん」という個別相談で、カフェでキャッチした微弱なSOSを掘り下げ、卒業後のことやご家庭のことなど学校とも連携しながら支援をし、校外の社会資源にもつなげ、生徒たちが今後生きていく糧となるセーフティーネットを構築しています。
中退・卒業後もぴっかりカフェがあり、何かあっても、何もなくてもふらっと来られることも一つのセーフティーネットです。ある時、いつもは制服の生徒が私服で図書館にいました。中退してしまったことを悟ったボランティアさんたちが、ソファに座っている生徒に詰め寄り、なんで辞めちゃったのか、これからどうするつもりなんだと言っていました。カフェがなかったら繋がらなかったであろう大人が、生徒の将来を真剣に心配していてくれる・・そんな関係性がぴっかりカフェにはあります。
中退してしまった女子生徒が、数年後、友人に誘われてカフェのボランティアに来てくれたときのことです。「私はぴっかりカフェに救われてたんだよね」と呟きました。ちょっと意外に感じたのは、その生徒と在学中にはあまり話さなかったので、何もしてあげられなかったという思いがあったからです。そう伝えると、「カフェの雰囲気とマスターの雰囲気がぴったり合っていて、それが良いなあっていつも思ってた。カフェの雰囲気に救われていたんだと思う」
何もなくても来られること。だから、何かあったら、カフェに行こう、連絡とろうになる。
カフェには毎年、何人もの卒業生・中退生がやってきます。もう10年以上、ゆるく繋がり続けている若者もいます。カフェがずっと存在し、繋がり続けられること・・それは数字では測りづらいけれど、大事な成果だとパノラマは考えています。
理事長 石井正宏からのメッセージ
10年前の今日、2014年12月11日に「ぴっかりカフェ」は田奈高校の学校図書館でオープンしました。そのスタートを資金面で支えて下さったのは、クラウドファンディングでご寄付して下さった一般市民の方々です。あの頃、私はパノラマの前に立ち上げた事業が上手く行かず、かなり貧乏していました。遠距離に住む私は、田奈高校に行く旅費を捻出するのも大変な時期でしたので、皆さまのご寄付は本当に有り難かったです。その節はありがとうございました。改めてお礼を言わせて下さい。
記念すべきオープン初日の来店生徒数は95名。当然、私だけでは手が足りず、臨任の先生がサポートに入ってくれました。開店祝いにクッキーを焼いて来て下さった先生がいましたし、私もクッキーを買って行きました。
実を言うと、あの時はお菓子をずっと出すつもりはありませんでした。あくまでも開店祝いとして、一人2枚という感じで出したんです。しかし、何人もの生徒が「もう一枚ちょうだい!」とねだる言葉に、これはただクッキーが欲しいだけではない、もっと切実なニュアンスがこもっていることに気づきました。
その後は皆さんの知っているカフェのカウンターのイメージのような、50人前後の小腹が満たせるようなカフェになったわけです。これだけ多くの方に注目され、評価していただいていますが、毎週1回提供される菓子やジュース、そして私たちの人件費は、この10年間ずっと民間の助成金頼りです。毎年助成金を申請し、プレゼンをして獲得した予算です。お陰で申請書を書くのは上手くなったと思いますが、一度だけ見込んでいてた助成金が取れず、途方に暮れた年がありました。
あの時の、不採択決定の理由を、私は忘れることができません。それは「パノラマは十分な事業成果を上げており、自走可能と判断した」というものでした。受益者負担の難しいご家庭のお子さんの支援を、どうやって自走可能にするのか?そもそもそれは共助で行うものなのか?公がやらないから民でやり続けているわけですが、どうして民間の小さな成功を、公が引き取って、より多くの子どもたちにもっと届く支援にしないのか?私はこの憤りを、10年間ずっと抱え続けながら資金調達をし続けて来ました。
私たちはずっと公の手が伸びるのを待ち続け、そのための発信もし続けて来ました。視察の受け入れは数えきれないほどです、全国での講演活動も年々活発になっています。そのお陰で、今年4月には校内居場所カフェ全国ネットワークを立ち上げることが出来ましたし、言語化し発信した成果は、校内居場所カフェスタッフ養成講座の3冊のテキストにまとめられ、毎年校内居場所カフェを開きたい仲間たちが受講して下さり、新たな校内居場所カフェ誕生の一助を担っています。
私があまり水面下のバタバタ的な投稿をしないので、パノラマの運営は安定して運営が出来ているような印象を持たれがちなんですが、自主事業の学校連携については、実はこれを書いている今も、来年度の予算の見込みが立っていません。これまでも満身創痍で年度を跨いで来ましたし、その足が着地する場は、いつ切れるともわからない綱渡りのロープなのです。それでも、私は学校に一度入ったら絶対にやめてはいけないと思っています。毎週1回、連綿とカフェを続けることで学校の中の文化となり、教員以外の大人が廊下を歩いていることが当たり前になることで、生徒支援を可能なものとしていくのだと考えています。私たちがその前例となる自負を持って活動しています。
カフェは10年ですが、学校に入ったのはその4年前。学校運営評議委員もやらせていただいている田奈高校との付き合いは彼此14年になります。気が付けば私が一番古く長くいる大人になってしまいました。これからも、末長く活動を継続して行くために、是非マンスリー・サポーターとして応援していただきますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
特定非営利活動法人パノラマ 理事長 石井正宏
↓メッセージ動画もぜひご覧ください!
https://youtu.be/4lwA7fkerpM