シリア危機から11年が経過しました。今も民主的な統治を求める非政権支配地域では多くの避難民の方々がキャンプでの生活を強いられています。
これまでもStand with Syria Japanでは非政権支配地域で暮らす避難民の方々の生活を支援してきましたが、明るい未来への糸口がなかなか見えない中での支援活動はいわば応急処置であり、根本的な解決に結びつけることが難しい状況でした。
そんな中、支援家庭から「自分たちの家庭は今までの支援で何とかやっていける状況まで来たので、ぜひ支援を他の人たちにも届けていただきたい」というお言葉を頂きました。
もちろん今までのように強制失踪など人権侵害によって特に困難な生活を強いられている家庭への支援を増やしていくことも選択肢の1つでしたが、Stand with Syria JapanのMissionである「民衆と共に自由で民主的な社会の構築」に向けて何をするべきなのかと考えた結果、出てきた解決策が次世代の教育でした。
11年という年月が流れ、短絡的な解決が望める状況ではないこのシリア危機の中において、私たちも長期的な闘いになることを覚悟の上で、支援を組み立てていくことが大切と考えました。
現在、シリアの非政権支配地域では継続的な学校運営が不可能と判断され、閉校に追い込まれる学校が数多くあります。
避難民の子どもたちにも平等に教育の機会を提供すると同時に、これからシリアが民主的な道を歩んでいくために必要となる民主的な統治への思いを受け継いでいく人を育てていくためにも、Stand with Syria Japanは教育支援事業をスタートします。
Story
★シリア人道危機について
2011年、中東諸国で起きた民主化運動「アラブの春」をご存知の方は多いのではないでしょうか。この波は独裁政権が続いていたシリアにも当然のようにたどり着き、民主化を求めて民衆が勇敢に立ち上がりました。
しかし、現政権でもあるアサド政権はこの民主化を求めた平和的な運動を武力で徹底的に制圧しました。これが2011年から11年続くシリア人道危機の始まりです。このような背景からStand with Syria Japanでは意図的に「シリア内戦」という言葉ではなく、「シリア危機」という言葉を使っています。シリアで起きていることは対等な関係の中での争いではなく、一方的な制圧、武力行使です。これは戦争ではなく、人道・人権危機です。
その後、混乱の中にあったシリアではIS(イスラム国)の台頭やロシアやイラン、アメリカをはじめとする大国の介入などにより更なる混乱を極めていくこととなります。その中でアサド政権による化学兵器の使用、病院や学校を標的とした無差別破壊、強制失踪と言われる民主化運動に関わった市民の拉致、拷問などが行われています。
現在、シリアはアサド政権が支配する地域と民主的なシリアを求め続けている非政権支配地域とに分かれています。我々Stand with Syria Japanは、この非政権支配地域で人として当然の権利である民主的な統治と人間としての尊厳を求める人々を支援する立場を明確にして活動をしています。
★国際社会における正義の乱れ-ウクライナ侵攻
このような人道危機が2011年から続き、「地球上の地獄」と言われるシリアに対し、国際社会からの注目、支援は決して十分とは言えないものでした。
このような状況が2022年国際社会にとって新たな悲劇を生むことになりました。ロシアによるウクライナ侵攻です。ロシアはアサド政権の強力な後ろ盾であり、上記に挙げた数多くの人権侵害はロシアとアサド政権によるものです。シリアにおける国連の介入を阻んだのも安保理議会におけるロシアの拒否権だと言えます。
多くのジャーナリストがウクライナから報告しているように、ロシアはシリアにおいてもプロパガンダとフェイクニュースを使い、自身の行動を正当化し続けていました。このような事実に現場のジャーナリストや現地の人々は声を上げ続けましたが、国際社会はこの異常事態を11年間も看過し続けてしまったのです。
現在もウクライナで続く侵攻だけでなく、昨今ではミャンマーでの軍事クーデター、新疆ウィグルでの迫害など世界各地で人権侵害が発生しています。これは人権侵害や独裁政権による横暴が許されるという認識が広まっている状況でもあります。2011年から11年間も看過され続けているこのシリアの状況は、残念ながら世界中の独裁者へのgoサインとなり、人権侵害や戦争犯罪が咎められることはないという動かぬ証拠になってしまっているのです。
だからこそ、シリアの状況を変えていくことは民主的なシリアを求める人びとにとってだけでなく、国際社会における正義が揺らいでしまっているこの時代の中で、平和・自由・民主的な統治を求める世界中の全ての人にとっても大きな影響を与えることであると考えています。
★自由で民主的なシリアに向けての次の一歩
そんな思いからStand with Syria Japanは2016年から活動を始め、日本においては1人でも多くの方々にシリアの事実を知ってもらうこと、またアドボカシー活動を通して政治的な手段でシリアへの圧力を強める活動を、シリア国内では非政権支配地域で暮らす130以上の家庭に緊急人道支援を、特にアサド政権による人権侵害によって一家の大黒柱を失ってしまった家庭を対象とした継続生活支援を展開してきました。
しかし、このような活動は目の前の人々の生活をつなぐことは出来るものの、シリアの人びとが目指している「自由で民主的な社会の構築」というところまではなかなか結び付けることが出来ませんでした。
そんな折に、現地の支援家庭から「自分たちの家庭は今までの支援で何とかやっていける状況まで来たので、ぜひ支援を他の方々に届けていただきたい」というお声を頂きました。これをきっかけに支援をより広範に届けていく広がりと「自由で民主的な社会の構築」に向けた支援とはどうあるべきなのかという深化を改めて考え直すことにしました。
★シリア国内の教育環境
このように支援の再構築を議論している際に、SSJ現地スタッフのスラージュからシリアの非政権支配地域における教育環境に関しての報告をもらいました。
「このままだとこれからはどんどん学校が無くなっていってしまう」。
現在、非政権支配地域では緊急事態という状況を踏まえ、財政的に運営が出来ない学校であっても運営許可されていますが、今後は財政的に継続して運営できない学校に関しては閉鎖される可能性が高いことを報告してくれました。
家庭の財政的な事情などにより学校に通えないという状況以前に、そもそも学校が無くなってしまうという危機的な状況が目の前に迫っているのです。これまでの民主化運動の中で教育支援を目的に多くの学校設備が作られてきましたが、そのほとんどが継続的な運営を可能にする教員の給与を支払うことが出来ず、多くの先生たちが別の仕事で生計を立ています。そのため空いている時間で子どもたちの授業が行われており、ほとんどの学校が学校として機能出来ていないのです。
★民主的なシリアの担い手
長期的に考えてこのままでは非政権支配地域の子供たちの教育の機会は失われ続けて行きます。非政権支配地域は静かなる死を迎えてしまいます。
教育環境が無くなることで、多くの子どもたちは学ぶことが出来なくなり、必然的に非政権支配地域の若者の教育レベルは落ちていきます。児童労働や不良行為に巻き込まれていくような子どもも増えていくことが予想されます。そうなるとその子どもたちはこれまで民主的なシリアを目指してきた大人たちの意思を引き継ぐことは難しくなっていくはずです。こうして民主的なシリアを目指す想いの炎は徐々に弱まり、いつかは消えてしまうと言えます。
だからこそ、Stand with Syria Japanは、自由で民主的なシリアに向けた次の一歩として、自由で民主的なシリアを目指す想いの炎を絶やさないために、子どもたちの教育環境を守っていく教育支援プロジェクトに取り組むことに決めました。
子どもたちの今と未来を守るため、そしてこれまでどのような状況でも諦めなかった非政権支配地域の人びとの想いを守るためのプロジェクトです。
★プロジェクトの詳細
今回のプロジェクトでは、シリア国内の教育支援事業として、現地スタッフのヒアリング調査を基に対象の生徒と想定課題を分類し、以下の2つのターゲットを設定して支援を実施します。
・十分な運営がなされていない学校に対しての教員給与の保証
・収入源が少なく勉強用具が工面できない家庭への文具貸与
まずは、2022年6月~2023年の5月の期間で、1つの学校をモデル校として選定し、教員5名、用務員1名、心理療法士1名の給与を保証し、合計20名の生徒を想定した貸与用の文具支援を行います。
今回、Stand with Syria Japanとして重要視したのが学校に常駐する心理療法士の雇用です。長引く危機的状態や進行や空爆によって、目の前で家族や友人を失ったり、直接的な被害を受けた子どもたちの心の傷は決して癒えるものではありません。何かのきっかけに心理的なトラウマが再発してしまう可能性も高いです。そのため、今回のプロジェクトでは、授業を行う教員だけでなく、レクリエーションやカウンセリングを通して子どもたちの心理的な負担を和らげる心理療法士を雇用することにしました。
2022年は1校を対象に実施しますが、今後同様の規模の学校に支援を拡大しながら、2025年までには合計1000人の生徒に教育の機会を提供していく計画です。
また支援を行うだけでなく、学校をベースとした各家庭への生活基盤支援や、通学費用を工面するためのコミュニティ内での雇用支援等、持続的な学校運営が可能になるための支援も展開することを計画しています。
★ご寄付のお願い
今回、キャンペーン目標額として70万円を掲げていますが、これは年間で1つの学校を支援するための半額に当たります。今後のプロジェクト継続のためにも、可能でしたら継続寄付にてご支援いただけますとありがたいです。
・毎月1500円の年間のご支援(合計18000円)で教師1人の1か月分の給与保障が可能です。
・毎月3000円の年間のご支援(合計36000円)で5人の経済的に困難な子どもたちに1年間文具を支給出来ます。
・毎月5000円の年間のご支援(合計60000円)で心理療法士の1学期分の給与保障が可能です。
※毎月継続のご支援ではなく、単発でもご支援いただけますと幸いです。
教師1人の1か月分の給与保障
¥1,500
※年間の継続支援の場合の用途になります。
学校運営が出来ない大きな理由が教員の給与が保証されていないことです。
毎月の支援をしていただくことで、20-30名の生徒に授業を実施する教員が1ヵ月間安心して働いていただける給与保障となります。
5人の子どもの勉強用具支援
¥3,000
※年間の継続支援の場合の用途です。
経済的に困難な家庭の子どもたちは、勉強用具を用意できないという理由で学校に行くことが出来ていない場合が多いです。
このような家庭の生徒5人が1年間学校に通うことが出来るように文具品を支給します。
子どもたちのメンタルケア
¥5,000
※年間の継続支援の場合の用途になります。
非政権支配地域の子どもたちは長引く危機的状態の中で、心理的トラウマを抱えていることが多く、いつ再発してしまうかわからない状態にあります。
レクリエーションやカウンセリングを通して、子どもたちの心理的負荷を軽減する心理的療法士の方を雇用します。