「ウクライナの一部地域は、2014年の武力紛争ですでに大きなダメージを受けていました。そこから地域医療を立て直そうと、私たち世界の医療団は2015年から地域の組織やスタッフ、住民の皆さんとともに働いてきました。しかし、そのように築いてきた関係や医療の仕組みを、今回の武力紛争が再び壊しました。このような行為を決して許すことはできません。今、私たち世界の医療団は一丸となって事業の組みなおしをはじめています。止むことのない攻撃、厳しい寒さの中でウクライナ国内に残っている人々、そして周辺国へ逃れた人々に必要な医療を提供するため、皆さまからのご支援をお願いします」
世界の医療団 日本事務局長 米良彰子
Story
2022年2月、ウクライナにおける武力紛争が始まったことにより、ウクライナ国内の状況は一変しました。慣れ親しんだ住まいや憩いの場は破壊され、人々は国外への避難を余儀なくされました。UNHCRの発表によれば、この紛争開始からわずか7日のうちに100万人を超える人々が避難民となっており、紛争状態がこのまま続けばさらに避難民は増え、ヨーロッパにおける今世紀最大の難民危機となることが危惧されています。避難している人々の多くは女性や子ども、そして高齢者など最も脆弱な人々です。彼らの置かれている環境や医療へのアクセスが急激に悪化していることは明らかであり、適切なケアが必要です。
世界の医療団は、2015年からウクライナ国内において約100名の専門スタッフからなるチームで人道医療支援活動を続けてきました。現在はチームの移動・安全確保をしつつ、現地のニーズ調査とこれにもとづく支援人材・物資の調達などの準備を早急にすすめています。
これまで信頼関係を築いてきた地域の住民たち、そして今回の攻撃により被災した人々など、いま医療を必要とする全ての人々の支えになることができるよう、ご支援をお願いいたします。
ウクライナは、ロシアやポーランド、ハンガリーなどと国境を接しており、ロシアとEU諸国の境界線に位置していると言えます。人口は4,159万、国土面積は60万3700平方キロメートル*。国土は日本の約1.6倍ほどと、ヨーロッパ地域の中では比較的大きな面積を持っています。青色と黄色の国旗にあらわされる豊かな大地、芸術が育まれてきた古都・キエフを首都に持つこの国ですが、一方で、長く人道危機にさらされてきた地域でもあります。
*外務省 ウクライナ|外務省 (mofa.go.jp)
背景
©Evgeniy Maloletka
ウクライナ東部のドネツクとルハンスクにおけるウクライナ政府軍と分離をとなえる親ロシア派武装勢力間の武力紛争は、2014年2月以来、激しさを増してきました。親ロシア派の分離主義者たちは、自称独立共和国であるドネツクとルハンスク両地域のウクライナからの独立を求めています。
この政治的・軍事的危機が始まって以来、ドネツクとルハンスク両地域の人道状況は憂慮すべきものでした。住民の多くは高齢者であったり、基礎疾患を抱えていたりしており、急激に悪化する生活環境に苦しみ不安を感じています。
世界の医療団の活動
©Evgeniy Maloletka
2015年6月より、世界の医療団はウクライナ東部のドネツクとルハンスク両地域に住む人々に医療サービスを提供することに注力してきました。これらはウクライナ政府が管理する地域(GCA)と、非政府が管理する地域(NGCA)の両方で活動していました。
政府が管理する地域では、最も脆弱な立場の人々に一般的な医療、メンタルヘルスと心理社会的サポート、性と生殖に関する健康相談を提供するなど、地域の医療制度強化を図っています。
非政府が管理する地域でも、もっとも医療に手が届きにくい人々を支援するために、必須医薬品の提供や医療施設のサポートなどを行ってきました。
また、ここ2年間は新型コロナウイルス感染症の流行も、人々に大きな影響を与えていました。高齢者や基礎疾患等を持った住民が多いにもかかわらず、専門医や医療施設は十分ではありません。医療サービスの提供や医療保健施設の整備などを通じ、感染症対策も支援してきました。
ウクライナの状況は非常に深刻で、刻一刻と変化しています。医療従事者(医師、助産師、心理士、看護師)だけでなく、コーディネーター、ロジスティクス、通訳、運転手などを含む、約80人の世界の医療団スタッフがウクライナ国内にとどまり、活動を続けています。
ケガの治療に使う医療資材を病院に提供したり、産科医や心理士はオンラインで相談を受け付けています。そして、近隣諸国で避難している人々への支援など、さらなる活動を準備しています。
©Felix Hoya