Issues we are working on
日本は世界有数の博物館大国だけど…
私たち一般社団法人路上博物館は博物館の内側と外側をつなぐ活動を通じて、博物館の社会的な価値を高めることを目指しています。
実は日本は世界的に見ても有数の博物館大国です。
全国に約4,800館があり、この数は日本の高等学校の数(約4,700校)とほぼ同じです。
一方で、多くの博物館が様々な課題に苦しんでいます。
文化庁が行っている「日本の博物館総合調査報告書」によると、以下のような現実が浮かび上がります。
例えば、財政面で厳しいと答えている博物館は全体の79%にのぼること。
先の2023年11月には、国立科学博物館がクラウドファンディングで運営資金の調達を行い、最終的に目標額の9倍である9億円以上のお金が集まり話題になりました。
これだけ多くの人びとに関心を持ってもらえたことや応援してもらえたことはとてもありがたいことです。しかし、裏を返せば「国立の科学博物館ですら運営資金に困っている状態」であるとも言えます。
他には、収蔵スペースが不足していると答えている博物館は全体の72.1%もあります。
路上博物館で過去に訪れた博物館で、収蔵スペースに充分な余裕があるところはほとんどありませんでした。中には、もともと別の用途の部屋に資料を保管しているケースや、苦渋の決断の結果屋外に資料を保管しているケースもあります。
また、職員数が不足していると回答した博物館は73.2%にのぼり、日本の全国的な人手不足の波に博物館も飲まれています。
その結果、調査研究が進んでいないと答えた博物館は72.3%になります。例えば、自然史分野の研究者が植物も鉱物も動物もすべて担当する、などといったケースがあります。
この報告書の最後のまとめでは、これらの課題はここ数年で生まれたものではなく、博物館業界が慢性的に抱えている課題であると指摘されています。また、その課題の大きさも年々拡大しており、新型コロナウイルス感染症の影響でさらに悪化した、とも言われています。
このように、日本には世界有数の多種多様な博物館がある一方で、多くの博物館は複合的な課題に苦しんでいるのが現実です。
もっといろんな人につかってもらえる博物館を目指す
私たち路上博物館は、これらの課題を分析し、
日常的に博物館に行く人びと
だけでなく、
博物館にふだん行かない人びと
にも博物館の価値を体験してもらう必要があると考えています。
路上博物館が掲げる
「博物館はもっと面白い」には、
「博物館の面白さを人びとに伝え、届ける」という意味と、
「今よりもっと面白い未来の博物館を創造する」という2つの意味が込められています。
博物館を今よりもっと自由に、もっといろいろな人が、もっと遊ぶように活用する未来をつくることで、
これらの博物館の課題が結果的に解決するのだと考えて私たち路上博物館は活動しています。
参考資料:
日本の博物館数:【国際博物館の日2023】データで見る日本の博物館事情(https://okimu.jp/museum/column/1683626734/)
日本の高校の数:文部科学省「高等学校教育の現状について 令和3年3月」(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/20210315-mxt_kouhou02-1.pdf)
博物館の課題:令和元年度「日本の博物館総合調査報告書」(https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/R2sougoutyousa.pdf)
国立科学博物館のクラウドファンディング:地球の宝を守れ|国立科学博物館500万点のコレクションを次世代へ(https://readyfor.jp/projects/kahaku2023cf)
Why we are tackling this issue
原点は館長のコスプレ趣味
路上博物館が目指すのは、老若男女さまざまな人が今よりもっと自由に博物館を活用できる未来です。
私たちのこの想いの原点は創業者であり路上博物館の館長兼代表理事でもある森健人(写真左)の体験にあります。
森は大学生の頃にコスプレにはまっていました。
(写真中央、写真は人気映画『SAW』に登場するキャラクターのコスプレをしている様子)
ある時、リアルなブタのマスクをつくろうと思い立ちました。リアルな造形には、本物の知識が欠かせません。リアルなブタの顔面を作るには、骨格の形や筋肉の付き方、皮の質感や毛の生え方などの様々な情報が重要です。
一方で、一般の大学生であった森にはブタの資料へアクセスする方法がほとんどありませんでした。
そこから紆余曲折あり、東京大学の大学院で動物の解剖をし、国立科学博物館の研究者になってからは大量の資料にふれる機会を得ました。
そこでは貴重な資料に存分に囲まれることができた一方で、それらの資料は極めて限られた人にしか触れることの許されないものでした。
もっと多くの人びとに、これらの資料に触れる機会を広げるべきなのではないか。
いや、そもそもこれらの資料にもっと自由にアクセスできたなら、自分はわざわざ大学院に行かなくてもよかったのではないか。
「科学」だけでなく、クリエイターに対してももっと広く博物館の資料が公開されてもよいのではないか。
こうした想いが路上博物館の活動を森が始める原点となりました。
路上博物館の原点について詳しくはこちらをご覧ください:
「コスプレイヤーが東大博物館に通っていたら……標本にハマった男性が「路上博物館」の“館長”になるまで」(https://president.jp/articles/-/50471?page=1)
誰もが自由に、を実現するための3D技術の利用
とはいえ、博物館には貴重な標本が多数保管されており、それらを未来に残すことも重要な役割です。そのためおいそれと、誰でも自由に博物館の資料に触れる機会を提供することは現実的ではありません。
そこで着目したのが「3Dデータ化する技術」でした。
本物は持ち出せなくても、3Dデータ化したり(写真右:骨格標本を3Dデータ化する様子)そのデータを使って3Dプリントしたものであれば本物を守りながら人びとに開放できるのではないか。
そこから、国立科学博物館に収蔵されている標本を3Dスキャンし、3Dプリントしたものを路上で展示する「路上博物館」の原点となる活動が始まりました。
そこからまた紆余曲折あり、2020年から一般社団法人路上博物館として法人化。
「博物館はもっと面白い」をビジョンに掲げた活動を開始しました。
参考資料:
フォトグラメトリによる博物館動物標本の三次元モデル化及び公開方法の模索的研究(科研費番号:17K12967)
(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K12967/)
はじめてのクラウドファンディングで760万円を調達
最初に行ったプロジェクトがクラウドファンディング「国立科学博物館の標本が自宅に届く!3Dプリントレプリカ&ARポストカード限定販売(https://camp-fire.jp/projects/view/267515)」でした。
これは普段は非公開の国立科学博物館にある骨格標本たちを3Dプリントしたレプリカやミニチュアを販売することで、今まで手に入れることができなかった一般の人にも博物館の資料を手に取る機会を広げることを目的としたプロジェクトです。
結果、プロジェクト初日で目標の100万円を達成。
最終的に608名の方々から合計約760万円の資金を調達することができました。
支援してくれた方の中には、学校の先生や、クリエイター、アーティストの人、また純粋に「キリンが好きです!」という人や「カバが好きです!」という人たちがいました。
もっと自由に博物館でたのしもう!
私たちがこれらの課題に取り組む理由は、博物館の資料にアクセスする機会を持たない人びとが、自由に博物館の資料を使える社会を作りたいからです。
その結果、路上博物館の原点の想いが満たされると同時に、
例えば、田舎や地方の子どもたちが博物館資料にアクセスしやすくなることで学びの機会の均等化につながったり、
例えば、映画やゲームのクリエイターがよりリアルな造形をつくったりインスピレーションを得ることにつながったり、
例えば、縄文土器をつかったぐい呑みをつくって仲間と楽しくお酒を飲む会を開くことにつながったり、
私たちが想像もしないような創造性を社会が発揮する未来が生まれるのではないかと思っています。
How donations are used
集まった寄付金は路上博物館の掲げる「博物館はもっと面白い」というビジョンを実現するための活動に使わさせていただきます。具体的には以下の活動に使用させていただく予定です。
また、活動を継続する中でより優先度の高い目標や取り組みが発生した際には、それらの活動を推進するための原資として大切に使わさせていただきます。
1)貴重な資料を未来に残すデジタルアーカイブ制作
路上博物館では自主的に博物館の資料の3Dデータ化を進めています。これまで300点以上の標本を撮影してきました。現在、路上博物館のSketchfabアカウント上(https://sketchfab.com/Memento)で公開の許可がとれたものを公開しています(写真左)。
これらの活動の結果、令和7年度の中学1年生理科の教科書で路上博物館が作成した3Dモデルが利用されたり、大学や専門学校の授業の教材として活用されたりするようになりました。
今後も自主的な取り組みとして、貴重な資料や標本をデジタルデータとして保存・公開する活動をするために寄付金を活用させていただきます。
主な用途
・3Dデータ作成に係る人件費
・3Dスキャンのための交通費や旅費
・3Dデータを公開するためのプラットフォームの利用料
・公開のための博物館との交渉に係る費用
2)博物館の面白さを体験するためのイベントやワークショップの実施
路上博物館では原点でもある路上(=博物館の外)での展示活動を大切にしています(写真中央)。
地域の子ども会や子ども食堂での出張展示や、学校や学童でのワークショップなどさまざまな場所で展示活動をしてきました。
これらの活動を継続した結果、路上博物館の工房がある千葉県松戸市では徐々に骨を見ただけで「あ、ライオンだ!前に見た!」という子どもたちが生まれてきています。また、「博物館かぁ、学校の遠足以来行っていないなぁ」という大人でも気がつけば小一時間も標本を見てもりあがったりする場面を何度も作り出してきたりしました。
一方でこうした活動の多くは収益の面から見ると赤字であり、継続するためには皆様の支援が必要となります。本寄付の一部はこうした活動に係る費用として大切に使わさせていただきます。
主な用途
・イベントやワークショップの企画運営に係る人件費
・現場までの移動や輸送にかかる費用
・消耗品や備品の購入費用
3)博物館を活用する門戸を広げるためのコミュニティ活動
これまで300点以上の標本を3Dデータ化してきましたが、路上博物館という組織で全国の博物館をカバーできるようになることはあまり現実的ではないと考えています。
私たちは、私たちのような想いを持って活動できる人を増やすことの方が、より現実的に目指す未来を実現できるのではないかと考えています。そこで2023年に休眠預金活用事業助成の助成金を獲得し「路上博物館3D撮影旅団」というコミュニティを立ち上げました(写真右)。
このコミュニティでは、参加者(団員と呼びます)に対して3Dスキャン技術や3Dプリント、ARやVR作品の作り方などをレクチャーすると同時に、実際に博物館に足を運んで資料の3Dデータ化と公開を行います。また年に1回の作品発表会を通じて、もっと自由に博物館の資料を活用するとは?という事例を蓄積する活動をしています。
このコミュニティを運営するための費用としていただいた寄付金を活用させていただきます。
主な用途
・コミュニティの運営(事務局)や専門家(メンター)の人件費
・活動に係る交通費や旅費、機材の購入などの諸経費
・旅団の活動を全国で展開するための博物館との交渉に係る人件費
・旅団の取り組みの広報にかかる費用
・作品制作や発表会の運営にかかる費用
4)これらの活動を支えるための予算
路上博物館の日々の活動を支えるための組織運営のための費用としても活用させていただきます。例えば、適正な組織運営のためのバックオフィスの人件費や弁護士や税理士などの専門家との連携にかかる費用、上記の活動などで使用する機材(カメラや3Dプリンターなど)の維持費などです。