Issues we are working on
売りに出された藩主の家を 市民の力でまもり、後世に伝え残したい
岐阜県中津川市。日本のマチュピチュと称される日本屈指の山城、苗木城。
苗木遠山氏は、関ヶ原の戦い以降、江戸時代全期に渡り苗木城主として苗木藩をおさめてきました。
私たちNPO法人ゑなは、苗木遠山氏の近代の屋敷である、苗木藩主邸遠山家住宅の保全活動を行っています。
最後の藩主となる第12代遠山友禄は、激動の明治維新を経て、廃藩置県ののち華族として東京へ移住し、晩年は旧藩士の救済に尽力しました。そして明治21年、士族復帰を果たした旧藩士卒から、その感謝の気持ちとして、友禄が苗木に帰郷する際の邸宅資金を拠出したい旨を伝えられ、友禄はまた苗木に戻ることとなりました。
友録公は明治27年に亡くなりましたが、 遠山邸の建設計画は進められ、明治45年(大正元年)に完成しました。その後も代は続き、住居として使われていましたが、16代目からは遠方に住んでいたことから、2000年以降、苗木の住宅は空き家となり、近隣住民が有志で草刈りをするなどして、かろうじて保持されてきました。
空き家となった2000年以降、この遠山家住宅の保全について、所有者と行政や地域住民と幾度となく協議がされてきたようですが、2021年に、様々な事情が相まって、やむを得ず売りに出されてしまいました。この事態を知ったわたしたちは、有志で私財を出し合いNPO法人を立ち上げ、寄付金を募り、遠山家住宅を購入しました。そして、保全をすることで、地域の宝として後世に残していく活動を始めました。
母屋はすでに取り壊されてしまっていますが、現在の遠山家住宅は、600坪の敷地に、別館として建てられた書院と、蔵が現存しています。この遠山家住宅は、平成28年に岐阜県教育委員会が発行した「近代和風建築総合調査報告書」に掲載されており、その歴史的・文化的価値が認められています。
Why we are tackling this issue
先人たちの想いを 後世につたえたい
明治維新のとき、苗木藩は全国的にも特に徹底して廃仏毀釈が行われた地域でもあります。
廃仏毀釈は、お寺が廃され仏像が壊されただけではなく、地域中にあった小さな神社や祠も一ヶ所にまとめられるという事態も起きていたそうです。
これまで信仰し続けてきたものが、あるとき一瞬にしてなくなるー
そんな激動の時代を生き抜いてきた人々が、最後に残したのが、この明治末期に創建された、苗木藩主遠山家邸宅です。
当時の人々の心境は、想像してもしきれませんが、この家には、並並ならぬ想いがつまっているような気がするのです。
そして、100年以上経った今でも、武士の風格をあらわす書院づくりの建物は健在で、当時の技術力の高さが伺えます。
しかし、地域の宝として守ってこられた方々も高齢となり、だんたんと手入れが難しくなっていました。
17代目当主の遠山さんと話をしたときは、本当はまもっていきたい想いがあるが、遠方に住んでいて、一個人では限界があること、売りに出さなければならなくなった止むを得ない事情があることも包み隠さずに話してくださいました。
まもりたくてもまもれないーーー
この遠山家に関して、そんな想いが蔓延していました。
歴史的にも価値のある、地域の財産が、負の遺産になってしまう…少子高齢化が進む中津川市では、このような事態がたくさん起きています。
中津川市は、中山道が通り、苗木城跡が残るほか、遡れば縄文土器も出土している、歴史的な文化財が多く残る街です。
しかしながら、趣のある建物が次々に取り壊されていき、跡地の看板だけになってしまっているのもよく見かけます。
わたしたちは、そこに「待った!」をかけたい。
かけなければいけないと思ったのです。少子化といえど、この地域に住み続ける人たちはたくさんいます。
未来の子どもたちが、この地域に誇りをもてるようなまちであってほしいー
そう思ったとき、先人たちがつくりあげたこの家が、取り壊されるのを見過ごすわけにはいきませんでした。
この家をまもることは、このまちの歴史や文化をまもることにつながり、ひいては日本の歴史や文化をまもることにつながると思っています。
この家をまもることが 本当に大切な学びにつながる
そして、実際に手入れをしていると、家のつくりや庭のつくり、石の配置まで、すべてが理にかなってつくられていることを目の当たりにしています。
この家は、ただ単に古い建物というだけでなく、わたしたちが今思い出すべき、古来からの日本人が大切にしてきた精神性がつまっているような気がしています。
家をまもることを通して、古来からの日本人が大切にしてきた精神性を学ぶことに繋がっています。
そして、その精神性こそが、現代を生きるわたしたちにとって、今必要な大切なことのような気がしています。
わたしたちNPO法人ゑなは、2021年12月に、遠山家住宅を購入して以降、毎月10日と20日を作業日として、有志ボランティアの方々とともに、清掃や庭木の手入れなどを行なってきました。作業日には、大人も子どもも一緒になって活動します。ここ、遠山家を「まもる」という活動は、老若男女が関わり合えるコミュニティの場にもなりつつあります。
How donations are used
遠山家の購入時から、これまでにも、多くの方々にご寄付の協力をいただきました。
この2年間で、瓦が崩れかかり、近隣の方々に危険の可能性があった塀を改修したり、石積みの修繕をしたりもしました。さらに、今年度は、門扉を新調しました。
これらの資金は、ほとんどが、寄付金で賄われており、職人さん方もご厚意で協力してくださっています。
遠山家をこれからもまもり続ける為には、ここから何かをうみだしていかなければなりません。
ところが、今後、この場所を活用していこうと思うと、まだまだ整備が必要です。
前述のとおり、時代に取り残されて20年以上空き家となっている間に、畳や襖は劣化し、建具が閉まりにくくなっている箇所がいくつかあります。
小堀遠州流の趣きある庭も、周囲の開発によって、水の捌け口を失い、土壌がかわり、13本植っていた松がすべて枯れてしまっています。新たな水路の整備が必要です。
台所や水回りは、昭和の時代に増築されて使われていたようですが、現在は崩れかかっていて取り壊しが必要な状態です。
トイレも昭和の時代に増築された所がかろうじて使えていますが、屋根は抜け落ち、不特定多数が使えるような状態ではありません。
現在使える水道は、外にある一ヶ所のみで、炊事などはできない状態です。
皆様からいただいた寄付金は、建物内の修繕、トイレ、水回りや庭の整備等に使わせていただき、より多くの人々がこの場所に集えるような場作りをしていきたいと考えています。ご協力をよろしくお願いします。