Purpose
MABADILIKOは2024年9月より、北キヴ州保健省・鎌状赤血球症の責任者である小児科医・Dr.Fezaと共に、鎌状赤血球症の子供を支援するプロジェクトをスタートさせました。
2024年10月12日と14日の二日間、ブレンゴIDPキャンプにおいて鎌状赤血球症のスクリーニング調査を実施。200人あまりの子ども達を検査した結果、4人の陽性者が見つかりました。
鎌状赤血球の難しい所は、検査を受けなければ、その子供は鎌状赤血球症に罹患しているという事実を知ることはありませんし、適切な治療を受けることも出来ないという点です。確定診断の検査が決して安価ではない(検査費用だけで、最低$15)ことから、現在までDRCの罹患の実態を調査するスクリーニングさえ殆ど行われたことがありません。DRCでは毎年生まれてくる新生児の2%がこの疾患に罹患していると言われています。(※2021年にGoma市からほど近いKindu市で鎌状赤血球のスクリーニング検査が実施されましたが、1.9%が罹患、26.8%がキャリアという結果でした。https://www.scirp.org/journal/paperinformation?paperid=106951)
少し専門的な話になりますが、学生時代、生物の時間に習った、メンデルの法則を思い出してください。エンドウ豆で例が示された、劣性有性遺伝のお話です。健常な遺伝子ををAA、キャリア(症状はないが、鎌状赤血球症の素因がある)をAS、鎌状赤血球症をSSと表すと、以下のようにASの両親をもつ子どもからは25%の確率で、鎌状赤血球症の子供が生まれてくることになります。
A S
A AA AS
S AS SS
実際のところ、鎌状赤血球症は必ず防げる疾患なのです。SSの人は重篤な症状が出るため、治療しなければ亡くなってしまうか、あるいは治療を受けていれば疾患についての認識がありますが、問題は自覚のないASのキャリア同士が両親になる場合です。例えば、カップルが婚前あるいは挙児希望前に鎌状赤血球の検査を受けることができれば、生まれてくる子供が抱える過大なリスクについて、子供を持つか持たないか、あるいはAAのパートナーを探すという方策を考えてみる機会が生まれるのです。
しかし、現実はそうではありません。現地では上記に説明したような鎌状赤血球症の劣性遺伝の実際について理解している人は殆どおらず、「防ぐことの出来る疾患」であると認識されていないどころか、悲しいことに何の根拠もなくただ一方的に、女性パートナー側にその素因(責任)があると考えられていることも多いです。キャリアであることを認識する検査について、stigmaや差別に繋がるかもしれない…という懸念もありますが、しかし、この疾患に罹患した子供が、激しい痛み・免疫不全のために登校もままならずどれほど苦しむことになるか。また、その治療や治療費捻出のために、家庭においてもどれほど大きな負担が生じるか、ということを考えると、その必要性について誰もが頷かざるを得ないのではないでしょうか。(※フランスでは生まれてきた全ての新生児を対象に、既にスクリーニング検査が行われています)
鎌状赤血球は最近解明された疾患ではなく、100年以上前に科学誌に掲載された、最初の単一遺伝性疾患です。にもかかわらず、現在も疾病率・死亡率の高い病気であるという現状を踏まえると、その意味で「Neglected disease / 顧みられてこなかった病気」の一つであると言えます。
Past Activities
現状、これ以上の子供を治療・フォローする予算がないため、当面の間はこの4人の子どもの治療を無償で行っていきます。鎌状赤血球症の治療は主に、貧血・免疫疾患・疼痛に対する対症療法です。深刻な貧血が生じた場合は輸血が必要になることもしばしばで、免疫を補うための抗生剤投与や時にモルヒネなどの強い痛み止めの投与も行われます。Hydroxyureaという薬が有効で(白血病の治療にも使用される)毎日の服用によって症状をコントロールすることで、発作(急激な症状の増悪)を防ぐことができます。
キャンプだけではなく、市内にも多数の鎌状赤血球症に苦しむ子供がいますが、経済的な理由により、適切な治療が受けられていないケースも多く、これらは今後の課題です。
なぜ、MABADILIKOは鎌状赤血球症にフォーカスするのか?これは最初から決まっていたことではなく、避難民キャンプの視察と、病院での日々の診療活動などのプロセスを経て、「私たちMABADILIKOは医療を提供する団体として何をするべきであるか」ということが、次第に見えてきたことによります。
現在、DRC東部では数多くのNGO・国際協力機関がそれぞれの分野でプロジェクトを展開しており、水・食料・医療・衛生などの面から様々な援助を行っています。けれども、現在も増え続けている、膨大な国内避難民の数に対して、提供されている支援は質・量ともに全く十分ではありません。
「医療」に関しては、マラリアやHIV・母子保健事業など、国際社会の注目度が高い疾患については支援が入っていて、一部では無償で治療を提供するシステムが整ってきているものの、先天性・慢性疾患に対する治療を提供している機関はなく、特に避難民キャンプにおいては、少なくない症例数がフォローされることなく放置され、命が失われているという実態があります。
Necessary expenses of the business
現在、MABADILIKOはスクリーニング調査で見つかった4人のIDPキャンプで生活する鎌状赤血球症の子供の治療・フォローを行っています。
必要経費は以下の項目です。
・症状コントロールのための、毎日の服薬の薬代
・定期的な検査(ヘモグロビン値など)費用
・発作や発熱時の入院治療・輸血費用
その時の症状や一人一人の子どもの状況によって、必要となる治療が異なるため、一概に経費を割り出すことは難しいですが、ひとり当たり$100~150/月の治療費が必要となります。