
Purpose



150万円の借金をして来日し食品加工の工場で技能実習生として働いていたベトナム人のグエットさんが2024年2月2日、男児を死産しました。来日前から「妊娠をしたら帰国しなければならない」と言われていたため、強制帰国を恐れ誰にも相談できずに一人で知人宅で出産したものです。
この事業の目的は、グエットさんが孤立し、適切な支援を受けられないまま孤立出産に至った背景を理解し、彼女を犯罪者と見なさないための支援を提供することです。彼女の無罪を訴え、裁判で正当な権利を守るためには、裁判費用(弁護士費用や実費等)、最高裁のある東京への旅費屋宿泊日や行動費などが必要です。皆様のご支援を心よりお願い申し上げます。
事件の概要
グエットさんはベトナムの貧しい家庭の出身で、技能実習生として日本で働き家族の生活を支えるために150万円の借金をして2023年7月に来日しました。来日前からベトナムの送り出し機関より「妊娠したら帰国しなければならない」と言われていました。2023年12月頃、体の異変に気がつき、妊娠が判明。来日後に交際を始めた相手との子どもではなく、来日前に交際していた相手の子どもでした。日本の受け入れ先である監理団体からも「妊娠したら仕事ができなくなるから帰国しなければいけない」と繰り返し言われていたので、借金を残したまま帰国させられるのが怖く、自分を頼りにしている家族にも、交際相手にも、誰にも妊娠について相談できずにいました。
2024年2月2日、グエットさんは普段通り出勤しましたが、腹痛で仕事ができずに、午前10時頃に退社します。自転車で帰宅途中、腹痛が酷くなって動けなくなったところに、通りかかった方が声をかけて下さり、家に連れて行ってあげると言われました。来日して半年ほどでほとんど日本語ができないグエットさんは、自宅までの経路を説明できなかったので、説明のしやすい交際相手の自宅まで連れて行ってもらいました。
交際相手の家に着くと破水したのでトイレに行き、そのまま出産。生まれてきた赤ちゃんを抱きかかえても、顔は真っ青で泣きもせず、反応もせず、息もしていませんでした。グエットさんは失った命に対しての罪悪感や後悔など様々な感情が入り混じり、申し訳ない気持ちでいっぱいで我が子の顔を正視することができませんでした。赤ちゃんをそのままの状態にしておくことはできず、疲労困憊の中、大量の出血に見舞われながら、何度か気を失いながら、赤ちゃんを入れるものを部屋中探し回り、ようやく見つけたのがスーパーのビニール袋でした。赤ちゃんをビニール袋に入れ、持ち手は結ばずに抱きかかえて時々顔を見て泣きながらごめんなさいと謝りました。しかし、体力は限界にきていて、抱きかかえ続けるのがきつく、またベトナムでは遺体を床の上に置くことはタブーとされていることから、しゃがみこんでいた場所のすぐ側にあったゴミ箱のゴミの上に置きました。交際相手が間もなく帰宅することも考え、現在の交際相手の自宅で前の交際相手との子どもを死産してしまったことを申し訳なく思い、彼に子どもの遺体を見せたくない気持ちもありました。
夕方、交際相手が帰宅し、血まみれで倒れている彼女の状態を発見し、近くのクリニックへ連れて行き、そこから救急車で別の病院に搬送されました。この病院から警察に通報がなされ、その後、入院中に警察により事情聴取がされました。そして、死産から4日後の2月6日に死体遺棄の容疑で逮捕され、2月27日同容疑で起訴されました。
グエットさんは博多警察署と福岡拘置所での約5か月拘留を経て7月2日に保釈が認められました。グエットさんは一貫して無罪を主張してきましたが、2025年3月7日、福岡地方裁判所は不当にも求刑通りの有罪判決(懲役1年6月執行猶予3年)を言い渡しました。そして、2025年11月4日、福岡高等裁判所は1審の有罪判決を支持し、控訴を棄却しました。
私たちの考え
グエットさんの孤立出産(死産)の背景には、多くの実習生が妊娠を理由に強制帰国させられている現実があります。「妊娠したら帰国」と言われ、多額の借金を残し帰国させられることを恐れて誰にも相談できず、言葉の壁もあり支援にもつながることができずに孤立出産に追い込まれたものです。
「孤立出産」は、妊婦健診を受けられず、妊娠そのものを周囲に隠したまま出産せざるを得ない女性が多く陥る状況です。孤立出産は母子ともに命の危険が非常に高く、とくに死産だった場合、死産直後の女性は、身体的に大量出血や極度の疲労状態にあるだけでなく、精神的なショックも大きく、冷静で合理的な判断を求めること自体が酷です。それにもかかわらず、孤立出産直後に取った行為が「適切でなかった」として死体遺棄罪に問われ、逮捕・起訴されてしまっています。
そして、医療機関での死産後の遺体の取り扱いについては何も問われにもかかわらず、孤立死産においては、出産直後の女性による遺体の「適切な処置」が不当にも求められてしまっています。逮捕・勾留された女性たちは、死産直後にもかかわらず十分な医療や心理的ケアを受けられず、身体的・精神的に過酷な環境に置かれ続けます。ようやく命を取りとめたにもかかわらず、その後も司法によって再び苦境に追い込まれているのが実態です。
現在日本では約45万人もの技能実習生を受け入れており、その多くは我々日本人の暮らしを支える労働力として活躍しています。しかし一方で彼らは職業選択や居住移転の自由など基本的人権が制限されており、国内外から「現代の奴隷制度」と批判されています。特に妊娠や出産という大切なライフイベントでもその自由が認められず、「妊娠がわかったら、帰国しなければならない」と言われている現状は深刻です。
この問題は女性の労働権及びリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)を奪うだけでなく、リプロダクティブ・ジャスティス(性と生殖・再生産を巡る社会正義)にも反し、妊娠や出産の責任を女性一人に背負わせる日本社会のジェンダー不平等も露呈しています。
グエットさん一人を犯罪者として罰することで、この問題を終わらせるべきではありません。私たちはグエットさんを無罪とすることを求めます。そして、彼女や同じような境遇に置かれた他の人々に対する社会福祉的支援と保護を強く訴えます。
グエットさんは無罪を訴え裁判で闘っています。闘いを続けるためには、最高裁のある東京への旅費屋宿泊日や行動費が必要です。孤立死産に追い込まれたグエットさんを犯罪者としないための支援金の寄付を募ります。ご賛同いただける方は、ぜひご協力をお願いいたします。
グエットさんの支援事業への寄付をされる方は、寄付ページのメッセージ欄に「グエットさん」とご記入ください。
Past Activities



コムスタカでは、2019年頃から技能実習生からの妊娠出産に関する相談を受けるようになりました。2020年には、熊本県芦北市のミカン農家で技能実習生として働いていたベトナム人のリンさんが孤立出産の末に死体遺棄罪で逮捕されてから2023年3月に最高裁で逆転無罪を勝ち取るまで、多くの方の協力を得ながら支援を行ってきました。また、現在も2021年に妊娠を理由に退職及び帰国を余儀なくされたフィリピン人技能実習生の監理団体等に対する責任追及を行うための支援も行っています。
Achievements

リンさんのケースでは多くの方の応援とご協力のおかげで一審、二審と有罪判決を受けながらも、あきらめることなく最後まで「私は子どもを傷つけても、捨てても、隠してもいない」と無罪を主張し戦い続け、最高裁で逆転無罪を勝ち取ることができました。リンさんが無罪を主張し戦い続けてくれたおかげで、技能実習生の妊娠出産問題や孤立出産の問題に社会の目が向いてくれたと感じます。それでもまだ技能実習生は強制帰国を恐れ孤立出産と追い込まれ、犯罪者として扱われてしまう現実があります。この現実を変えていくために支援活動を継続してまいります。
Necessary expenses of the business
裁判費用(弁護士費用、実費)、最高裁のある東京への旅費屋宿泊日や行動費などの支援のため

