駆け抜けてオロロンライン
2025/6/7 09:30

稚内から,コマッコウ漂着の一報が入ってきました。推定体長は約2.8m。フンペヤン号の後部座席を畳んでやっと載るようなサイズです。当然,乗れる調査員数も限られ,私と調査員Nの2名体制で出動し,全身回収を試みることになりました。
函館から稚内へ行くとき,いつも頭をよぎることがあります。
「オロロンラインで,何話そう…」
オロロンラインとは,留萌から稚内まで続く国道232号線の愛称です。内陸の名寄市を経由する国道40号線を通るルートもあり,こちらは道の駅がたくさんあって退屈しないのですが,シカとの遭遇が多いのがネックです。
枯れササがへばりついた切り立った斜面と,石がごろごろした遠浅の浜との間に細い二車線道路がうねうねと続く,単調な道。北海道日本海側の長距離運転に覚えのある者なら100万回見たことがある光景です。「この道,松前っぽい」「いや小平だよ」「島牧じゃない?」―――誰と乗っても,毎回繰り返される不毛な議論。私もご多分に漏れず,これまで500万回は同じやりとりをしています。もうたくさんです。しかも調査員Nとの稚内出動は直近で2回目,つまり3回目のオロロンラインです。少々オロロン過多。
それでも往路は,まだ見ぬコマッコウの話に花が咲きました。コマッコウ,もしかして最北端記録だったりする?残念,カナダでした~。ついつい忘れちゃうけれど,コマッコウって骨盤骨がないんだよね。じゃあ解剖の時,なくしちゃった!ってならないようにしないとですね。…積めなかったらどうします?…どうしようねえ。
また,助手席側が海なので,調査員Nは窓の外に目を凝らしてイルカが落ちていないか探してもくれました。イルカ探索実況付きのドライブは意外と楽しく,退屈しません。なんだ,なかなか有意義なオロロンラインじゃないか。
なんとか日没前に海岸に到着した我々は,現場で無事にコマッコウを積み込みました。手で押してもびくともしない巨体を,重機でいとも簡単に吊り上げてくださった海岸管理者の方がまぶしく見えます。いつも回収に行くとき,往路で(どうか無事に積めますように!)と祈る気持ちで現場に行くのですが,今回のようにするっと車に鯨体が入り,青空の下でバタンと気持ちよく閉まるドアの音が,私が調査中に聞く中で一番好きな音かもしれません。その日はとっても安心した気持ちで稚内市内のお宿に入り,近くの温泉と美味しいご飯を堪能しました。俄然,帰ってからの解剖も楽しみになってきました。
翌日。たっぷりと睡眠をとって完全回復した我々は,帰り道について考え始めました。行きは結構楽しかったし帰りもオロロンラインでいっか。また車窓からイルカ探索実況を聞きながら楽しく運転すればいい。のんきに考えていた私に,調査員Nが衝撃の事実をもたらしました。
「帰りは逆向きなので,運転席側が海ですね。」
「…名寄でアイス食って帰るか。」
4回目のオロロンラインはさすがに実現しませんでした。
(K)
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