タヌキの疥癬と猫餌の因果関係 実情と考察
2025/2/22 12:05

皆さんは、こんな生き物を街中で見かけたことがありますか?
これは、疥癬という皮膚病に罹ってしまったホンドタヌキです。
私達の元には全国各地から野生動物に関するお問い合わせが寄せられてきますが、その中でも比較的多いのがこの疥癬に罹患したホンドタヌキに関するものとなっています。
二十年近く続けてきたこの傷病野生鳥獣の救護活動の中で、私達はこのホンドタヌキが疥癬に罹患し、重篤化する要因のひとつに『ホンドタヌキがキャットフードを食べてしまったこと』が原因ではないかと考えています。
ここでは、私達がそう考えた経緯について、少しお話させていただこうと思います。
疥癬についての前提知識
まず、冒頭でも少し触れましたが、疥癬は『ヒゼンダニ』というダニによって引き起こされる皮膚病です。
このヒゼンダニは宿主特異性といって、人にはヒトヒゼンダニ、ネコにはショウセンコウヒゼンダニ、イヌにはイヌセンコウヒゼンダニ、鳥類はトリヒゼンダニと宿主を選ぶ性質があります。タヌキはイヌ科となる為、寄生するヒゼンダニはイヌセンコウヒゼンダニが主となり、疥癬の症状を引き起こします。
また、ヒゼンダニの特性として皮膚の角質層に寄生するというものがあり、メスは疥癬トンネルと呼ばれる穴を掘って産卵もする為、角質層の中で増殖していきます。これが猛烈な痒みとして症状に現れ、皮膚もひび割れのような状態となり、全身がかさぶたに覆われた皮膚となってしまいます。
さらに、疥癬には段階として通常疥癬から免疫力が落ちると角化型疥癬に移行するとされ、人間であれば通常疥癬の場合は数十匹のヒゼンダニの寄生、角化型疥癬の場合は100万~200万のヒゼンダニが繁殖し寄生しているといわれています。
ホンドタヌキの疥癬について
実は疥癬自体が直接の死因となることはないのですが、疥癬によってひび割れた傷口からの感染症や、体温調整機能が失われることによる凍死、口周りが肥厚し、上手く餌を獲れなくなることによる脱水や飢餓などにより死に至ることは多く、治療により皮膚状態が快方に向かっても最終的に多臓器不全、敗血症で亡くなってしまうこともあります。
ホンドタヌキの疥癬がここまで蔓延している理由、最初にタヌキの疥癬の発症が確認された時期も実はまだ明確には分かっていません。
発見される疥癬に罹患したホンドタヌキのほとんどは角化型疥癬にまで移行しています。角化型疥癬の場合は少しの接触で感染する為、通説ではタヌキがパック(群れ)で行動することで感染が広がるとされています。これもひとつの要因として考えられるのは分かりますが、そもそもタヌキは子育ての時期はもちろん、縄張り意識の低い動物という点から家族単位や別の群れと合流したパックで行動することもままある為、もし種としての習性である集団行動だけが蔓延の要因となるのであれば、従前より個体数が減っていてもおかしくありません。
そういった点からも、『ここまで蔓延した最初の始まりは何だったのか』、『自然の中でそこまで免疫を落としてしまう要因は何なのか』というところまでは解明されておらず、様々な推測がされています。
推測されるタヌキの疥癬とキャットフードの因果関係
ここ数十年続けている問い合わせのヒヤリングの中で、疥癬に罹患したタヌキが『外ネコの餌を食べに来ていたタヌキが徐々に毛が抜けてきた』『地域猫の餌場によく来てキャットフードを食べているタヌキが脱毛している』といった内容が多数寄せられていました。
また、別団体の保護施設でも地域猫の餌場で疥癬に罹患したタヌキが目撃されるケースがあるとの情報もあり、当団体の調査の中で『出先でたまたま見かけただけ』といったケース以外のほとんどはキャットフードとの関連が確認されています。
もちろん、『餌場に集まることで感染が広がる可能性』はあり、『地域ネコ活動の場所だから人目につきやすいから問い合わせが多い』ということも考えられますが、いずれにしても『重篤化する要因の免疫力が低下した原因』について判然としません。
これまでにも、高齢となった個体、衰弱した幼獣、怪我を負った個体が免疫の低下により疥癬となったケースも数例ありましたが、問い合わせの中で散見される特に怪我などもなく健康体だった成獣がネコの餌を食べている中で徐々に疥癬となってしまったケースについては、『キャットフード』との何かしらの因果関係も決して否定はできません。
タヌキは雑食性、ネコは完全肉食性
私達は仮説の一つとして、タヌキがキャットフードを食べることで免疫力が低下し、疥癬が重篤化しているのではないかと考えています。
タヌキは雑食性の動物で、木の実や昆虫、果物、山菜、きのこ、小動物やその死骸などを食しています。
一方で、ネコは完全肉食動物。
一般的に、イヌがキャットフードを常食すると体に良くないとされていますが、これはイヌが肉食に近い雑食性であるのに対し、ネコはほぼ完全な肉食性で食性が僅かに異なる点にあります。
一見すると、見た目は同じように見えるキャットフードとドッグフードですが、ペットフードの栄養基準や表示に関する基準を定めるアメリカのAAFCO栄養基準ではキャットフードがタンパク質26%・脂肪9.0%、ドッグフードがタンパク質18%・脂肪5.5%と栄養素割合は異なり、さらにタウリンを体内生成できるイヌと違い、ネコはタウリンを食事で摂取する必要がある為、キャットフードにはドッグフードに不要なタウリンが含まれていたりと含有成分が異なります。
その為、イヌがドッグフードを常食してしまうとそれらの成分が過剰摂取となり、高タンパク・高塩分などで肥満や腎不全などの病気を引き起こしやすくなる可能性がある、といわれているのです。
そしてタヌキはイヌよりもさらに食肉性の低い雑食性の動物です。そのタヌキがキャットフードを食べてしまえば、タンパク質や脂質など、本来自然の中で多くは得られない栄養素を過分に摂取してしまうこととなり、消化器官や内臓などへ負担をかけ免疫力が低下してしまうことは十分に考えられます。
よく勘違いされてしまうところなのですが、動物界での雑食は『何でも食べる』という意味ではなく、『幅広い食性を持つ』という意味です。
身近な生き物でいうとスズメも雑食性の動物となりますが、何も豚肉や牛肉も食べるわけではなく、『穀物や木の実、昆虫も食する』ということで雑食に分類されています。
種によって食事から得る必要栄養素に違いがあり、逆に食すことは可能であっても体に害をもたらす可能性のある不必要な栄養、許容限度のある栄養がある、ということです。
そういう意味で、もちろんパンやシュウマイといった人の食べ物をタヌキに与えることもよくありません。
キャットフードとタヌキの疥癬について歴史から見る考察
ここからは完全に「キャットフードとタヌキの疥癬に関連があるならば」という想定を前提とした考察になります。
疥癬を患ったホンドタヌキは、1981年に岐阜県で目撃されたのが日本で最初と言われており、横浜市では1987年に初めて目撃されたといわれています。
東京都内でのデータは不明ですが、当団体と提携するのづた動物病院の創業当初から疥癬に罹患したホンドタヌキの保護があったことから、遅くとも町田市内では1994年には蔓延していたものと思われます。
あくまで参考程度にではありますが、キャットフードの日本伝来時期は1970年代とされていて、当時はかつての名残からネコが放し飼いされているケースも多く、外でネコに餌を与える飼主も少なくはありませんでした。さらに、家で飼うことができない代わりに野良猫に餌を与える市民も一定数いて、キャットフードが日本に伝来して以降、比較的安価で手に入るようになってからはそれが加速したものと考えられ、10年の間にタヌキが外ネコの餌を食べることを覚えていった可能性も考えられます。
また、地域猫活動は1997年11月30日に開催された『第3回磯子区民と考える猫問題シンポジウム』の中で公表された『地域猫』という言葉が広まったことから始まったとされており、地域猫活動の波及に伴い外でキャットフードを食す機会が増えてしまったタヌキが疥癬となってしまった可能性もないとは言い切れません。
病理解剖などを通し、更なる解明を
近年では北海道の札幌市で餌付けをされていたキタキツネが疥癬となっているケースも確認されており、その中にはネコ餌の餌付けについても指摘されていました。
また、海外での論文の中でもタヌキやキツネ、コヨーテの疥癬に関するものは非常に多く、疥癬が野生動物の個体数を大幅に激減させる要因になり兼ねないともされています。
まだまだこの分野は未開拓の部分が多く、ここで書かせていただいたことに関しても生体実験を行っていない為、現段階ではどうしても考察や推察の域を出ず、確証のあるものではありません。
しかし、可能性を一つひとつあげていき、その説が覆されるにしろ証明されるにしろ、大事なのは早急に原因が究明され、疥癬を患い、苦痛の中で命を落とす野生動物が一頭でも減ることだと思っています。
今後、当団体ではデータの蓄積と分析に併せ、疥癬で亡くなってしまった個体の病理解剖も進めていく予定です。
たくさんの子を見送ってきたからこそ、その子達が遺してくれたメッセージを次の命に繋げていけるよう、これからも尽力して参ります。
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