子どもを守れない学校に、教育機関としての資格はあるのかーー。2017年、長崎県の私立・海星学園で、高校2年の男子生徒がいじめを苦に自死しました。学校は「いじめ防止対策推進法」で定められた責務を怠っていたばかりか、自死の隠蔽をも図りました。ところが現在も、学び舎として存続しています。全国で繰り返されるいじめ自死を止めるため、学校を問います。本シリーズ「保身の代償 長崎高2いじめ自死と大人たち」の取材にかかる費用を募ります。
ストーリー
繰り返されるいじめ自死 子どもを守れない学校を問う
学校という閉ざされた空間で「いじめ」が起きたとき、子どもを預かる教育機関は、「絶対に子どもを守る」と断言できるでしょうか。
私は、断言できる教育機関はほとんどないと思います。
2025年10月、文部科学省が2024年度の小・中・高・特別支援学校におけるいじめの認知件数を公表しました。77万件で、過去最多です。
学校側は、そのうち18万件が未解消であると文部科学省に報告しています。自ら命を絶った子どもは400人を超え、いじめが原因のケースも含まれていますが、正確な人数は誰も把握できていません。学校や行政の、実態を把握しようとする意思は希薄です。
毎日のように、死を選択する子どもが出てしまう社会には、明らかな欠陥があります。
2011年、「大津いじめ自殺事件」が起きました。中学2年の男子生徒が、同級生たちからのいじめを苦に自死した事件です。その後、学校や教育委員会がいじめの隠蔽を図り、自分たちの責任から逃れようとしました。
大津での事件を受けて、2013年に「いじめ防止対策推進法」が制定されました。学校、自治体、国がとるべき対応と責任などが盛り込まれた、子どものいじめに関する国内初の法律です。
しかし法律で定められた対策を、学校や監督行政が怠り犠牲者が出ても、罪には問われません。子どもを守る法律とは言えません。
実際、制定から10年以上が経っても、いじめや自死の数は増えています。
これは、子どもたちの問題ではなく、大人たちの問題です。
私たちは皆、「いじめ」を経験しているはずです。いじめる側、いじめられる側、いじめを目撃する側の、いずれかに当てはまりませんか。しかし多くの人は、時とともに学校を去ります。気付かぬうちに学校でのいじめが「他人事」になります。
でも実際は、学校でのいじめは存在し続けています。私たちが見過ごしてきた結果が、今の子どもたちを苦しめている原因ではないでしょうか。
学校も行政も、変わらなければいけません。そのためには、すべての大人が真剣に向き合い、声を上げ、悪循環を止めるしかありません。
シリーズ第2章「学校編」を始めます
シリーズ第1章「共同通信編」では、長崎県で起きた、福浦勇斗さんのいじめ自死事件をめぐる、「メディアの保身」を報じました。
第2章では、勇斗さんが通っていた海星学園の実態に切り込みます。
勇斗さんの自死の隠蔽を図った海星学園は、現在も遺族の前に立ちはだかっています。在校生や保護者に事実と異なる情報を流布したり、自死の原因がいじめであると認定した第三者委員会の報告書を否定したり。自校の生徒が命を絶った責任を感じているとは思えない言動を重ねています。
勇斗さんの自死から8年が経ちますが、遺族は裁判を通して海星学園と闘っています。なぜ、わが子を亡くした親が、二重三重の苦難を強いられるのでしょうか。
さらに、海星学園での犠牲者は、勇斗さんだけではありませんでした。今も学校運営を続ける海星学園ですが、子どもを預かる教育機関としての資格はあるのでしょうか。
11月20日より、毎週木曜日に連載します。
子どもを守れるかどうかは、大人たち次第です。子どもをもつ人も、そうでない人も、今一度真剣に、子どものいじめについて考えを巡らせていただけることを切に願っています。
2025年11月13日
Tansa記者 中川七海
記事はこちら
シリーズ第1章「共同通信編」https://tansajp.org/investigativejournal_category/hoshin/
シリーズ第2章「学校編」https://tansajp.org/investigativejournal_category/hoshin2/
Tansaについて
Tansaは、探査報道を専門とする報道機関です。当局発表を右から左に流す「記者クラブ報道」「発表報道」とは違い、暴露しなければ永遠に伏せられる事実を、独自取材で掘り起こし報じます。問題の構造に切り込み、犠牲者・被害者の置かれている状況を変え、将来の被害を防ぐことを目的としています。
GIJN、Asian Dispatch 加盟の国際ニューズルーム
Tansaはジャーナリズムのグローバルスタンダードである、世界規模での連携を重視します。探査報道が挑む国家権力や企業は、すでに国境を越えて広く活動しており、取材現場も国内外にわたるためです。報道記事は、日英2言語で発信しています。2017年、Tansaは探査ジャーナリズム組織でつくる「探査報道ジャーナリズム世界ネットワーク(GIJN)」に日本で初めて加盟し、公式メンバーとなりました。2025年現在、97カ国263組織が加盟していますが、報道機関としては国内唯一の加盟です。2024年には、探査報道機関のアジアネットワーク「Asian Dispatch」に初期メンバーとして加盟しました。
Tansaの報道実績
Tansaの徹底的にファクトを追求する報道は、数々の機関から評価されています。
2025年:日隅一雄・情報流通促進賞2025【奨励賞/2024年下半期ノンフィクション本大賞 入賞/第51回放送文化基金賞 調査報道賞/第2回国際文化会館ジャーナリズム大賞 特別賞
2023年:2022年メディア・アンビシャス大賞【活字部門】優秀賞/ジャーナリズム支援市民基金「第4回ジャーナリズムXアワード大賞」
2022年:一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ「PEPジャーナリズム大賞&課題発見部門賞」/ジャーナリズム支援市民基金「第3回ジャーナリズムXアワード大賞」
2020年:一社オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構「最優秀賞」/ジャーナリズム支援市民基金「第1回ジャーナリズムXアワード大賞」
2019年:Linked Open Data チャレンジ Japan 2019 アプリケーション部門「優秀賞」
2018年:反貧困ネットワーク「貧困ジャーナリズム大賞」
2017年:日本外国特派員協会 「報道の自由推進賞」
なぜサポートが必要なのか
Tansaは、あらゆる権力から独立した報道機関です。企業・行政からの広告収入は一切受け取っていません。また、経済状況にかかわらず誰もが良質な報道にアクセスできるよう、読者からの購読料もとりません。Tansaの活動を支えるのは、個人からの寄付と、編集に一切介入しない財団・基金からの助成金です。深く緻密な探査報道には、市民の皆さまからのサポートが必須です。寄付でのご支援をお願いいたします。
寄付の使いみち
本シリーズは、2023年に連載開始しました。200万円を超える寄付が集まり、取材・報道を続けてこられました。誠にありがとうございます。
2025年11月に開始したシリーズ第2章では、さらに100万円の取材費を募集します。予算内訳は以下のとおりです。

本シリーズ継続のためのご支援を、どうかよろしくお願いいたします。

