研究紹介:ネズミイルカのパッサビリティ
2023/3/16 11:18
漁業において,漁獲対象ではない種を意図せず漁獲してしまうことを「混獲」と呼びます。ネズミイルカは沿岸域に生息するため,混獲されやすい種として知られています。先日の活動報告でもご紹介した通り,現在おたる水族館で飼育されている4頭のネズミイルカは全て,定置網で混獲された後にSNHが保護した個体です。
鯨類は私たち人間と同じ哺乳類なので,水面に浮上して呼吸をする必要があります。そのため,定置網で混獲されたネズミイルカが漁獲物によって水面に浮上できず,死亡してしまうケースも少なくありません。また,定置網での混獲は漁業操業の妨げとなるだけでなく,漁具の破損に繋がることもあります。混獲はネズミイルカと漁業者の双方にとって深刻な問題なのです。
定置網での混獲防止策として,「定置網内に格子状の仕掛けを設置する」というものが考えられます。つまり,漁獲物が溜まる部分よりも手前にネズミイルカが通過できないサイズの格子を設けることで,迷入を防止しようという作戦です。このような格子状の仕掛けを設計するために,ネズミイルカのパッサビリティ(Passability),すなわち「どの程度狭い隙間を通過できるか」ということを調査する研究が実施されました。
ところが,おたる水族館の飼育個体を対象に実験をすると,ネズミイルカが40cm程度の極めて狭い隙間を通過できることが明らかになりました。定置網漁業では,サメやマグロといった大型魚類が漁獲対象になる場合があります。そのため,この値をもとに格子状の仕掛けを設計することで,ネズミイルカだけでなく漁獲対象の魚類までもが網に入らなくなってしまう可能性が指摘されていました。
そこで現在は,格子の形状に工夫を施すことで,「魚類は通過できるがネズミイルカは通過できない仕掛け」の設計を目指す研究が進められています。このように,鯨類と人間の共存に寄与する知見を積み重ねるためにも,SNHが継続的に活動することが重要です。
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