どんな意味があり、なぜ続けるのか。尾崎章彦医師からのメッセージ
2021/9/22 11:21
2021年8月27日、調査報道機関のTansa(旧ワセダクロニクル)と医療ガバナンス研究所は、製薬マネーデータベース(以下、製薬DB)の2018年度版を共同で公開しました( https://db.tansajp.org/ )。製薬DBは、Tansaと医療ガバナンス研究所が、2016年度版から継続している取り組みであり、その趣旨は、製薬企業と医療界の金銭関係における透明性を高めることです。
2013年度以降、製薬企業は、業務の中で医療者や医療機関に支払った謝金や寄付金について、自社のホームページで公開しています。ただ、各社が別々に公開しており、その全貌を網羅的に把握することが困難でした。その限界を補うために、Tansaと医療ガバナンス研究所が全てのデータを収集し、一つのデータベースとして公開を開始したのです。
筆者らは、2016年度版を2019年1月に、2017年度版を2020年8月に公開しました。そして、そのデータを用い、Tansa、医療ガバナンス研究所は、それぞれ製薬企業と医療界の関係性を様々な角度から分析し、報道記事( https://tansajp.org/investigativejournal_category/docyens/ )や医学論文( https://www.megri.or.jp/drug )を発表してきました。さらに、2019年11月6日には、文部科学省が、製薬DBを解析し2,000万円以上の受領があった大学教授7人の存在を、衆議院厚生労働委員会で報告するなど、公的な機関においても利用されています。( https://tansajp.org/investigativejournal/4823/ )。
その結果、この2年半で徐々に認知は高まり、これまでに、累計で、約44万ユーザー、約636万ページビューを獲得、現在は1日の平均ユーザー数が1000人前後で推移しています。
ところで、なぜ製薬DBを我々は公開しているのでしょうか。それは、製薬企業と医療界の特別な関係性にあります。我々が特に着目しているのは、講演会講師への対価として医療者に支払われる謝金や医療者が所属する大学医局に支払われる寄付金(奨学寄附金)などです。もちろんこれらの支払いは、新薬に関しての教育活動や学術活動の奨励に一役買っている可能性があり、それ自体違法性はありません。
そもそも製薬企業と医療界の緊密な協力関係は、医学の発展に欠かせないという声もあるでしょう。一方で、様々な実証研究により、これらの金銭が処方を介して製薬企業の利益誘導につながっている可能性が指摘されています。
製薬企業と患者の利益の方向が同じであれば何の問題もないのですが、 過去を遡ればディオバン事件、最近では、奨学寄附金を巡る三重大学麻酔科と小野薬品の贈収賄事件のように、製薬企業と医療界の行き過ぎた金銭関係はしばしば不祥事につながってきました。後者の事例は、今年になって関係者の有罪が確定しており、三重大学麻酔科においては離職者が相次いでいます。改めて言うまでもなく、地域医療への影響は計り知れません。
ただ、このような事例が、製薬企業と医療界の金銭的なつながりに与える影響は限定的と言えます。そのような中、せめてその関係性に透明性を確保し、お金の流れを「見える化」しようと言うのが、我々の活動の趣旨になります。
なお、透明性をもって、製薬企業と医療界の金銭関係の規制を試みているのは、欧米諸国も同じです。つまり、透明性は、程度の差はあれ、製薬企業と医療界の規制を行う上で最も広く支持されている方法と言えるのです。
さて、最新版に当たる2018年度版の製薬DBにおいては、さらなる発展と継続性を狙って、ウェブサイトを一新いたしました。具体的には、2016年度から2018年度までの3年度分のデータを一つのウェブサイトで確認できるようにした他、医療者向けの支払い、医療機関向けの支払い、研究開発関係の支払いなどを項目別に確認できるようにしました。
また、過去の研究成果や記事へのリンクの他、同様の取り組みを行っているヨーロッパのEuros For Docsや米国のDollars for Docsへのリンクも準備しました。海外からの認知度を高めるために英語のウェブページも準備しています( https://db.tansajp.org/en 、検索は日本語のみ可)。
これは、この1年間で急激に海外とのコラボレーションが増えていることとも関係あります。現在、我々のチームでは、アメリカの他、スウェーデン、イギリス、アイルランド、フランス、オーストラリア、フィリピン、ネパールなどと共同研究を行なっています。お金に絡んで問題が起きるのは、万国共通です。微力ではありますが、世界の仲間と協力しながら、この問題に今後も取り組んでいきたいと思います。
最後になりましたが、この場をお借りして是非とも皆様にお伝えしたいのは、感謝の想いです。製薬DBは、多くの皆様からいただいたご寄付・ご支援のおかげで継続することができています。2018年度版は、クラウドファンディングの一つ「モーションギャラリー」を通して、実に141万円の寄付をいただくことができました。本当にありがとうございます。
そして、ここからはお願いですが、2019年度の製薬DBを作成するために、同じ寄付プラットフォームであるSyncableにおいて、現在寄付をお願いしております。
もちろんお願いするばかりでは皆様のご支持はいただけないことは理解しています。私たちは、皆様からの寄付を有効に活用できるよう、データベースをより効率的に作成する方法を日々模索しています。具体的には、最新の製薬DBのウェブページは、それ自体に来年度以降のデータをアップロードすることができ、来年度以降、新規のウェブサイトを作成する必要がなくなりました。これは大幅なコストカットにつながるはずです。
改めまして、これまで製薬DBを使ったことがある方もそうでもない方も、改めて最新版の製薬DBに触れていただき、この取り組みを今後も継続するための手助けをお願いできればと考えています。
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