2002年の日朝平壌宣言の際に北朝鮮が日本人拉致を認めてから20年以上が経ちました。しかし、拉致問題は一向に進展しません。被害者の家族や拉致の疑いがある人の家族は高齢化が進みます。残り少ない時間の中で、我が子やきょうだいに会えないまま苦悶の日々を送っています。
拉致問題が進まない背景には、警察による捜査が進展しないことがあります。警察は「拉致の可能性を排除できない事案に係る方々」として871人をリストアップしています。ところが政府が拉致被害者として認定しているのは17人。2006年に松本京子さんを認定してからは1人も認定していません。
警察の捜査が進まない中、Tansaは日本国内はもちろん、韓国など関係国にも足を運んで取材し事実を掘り起こしていきます。
ストーリー
政府にとって不都合な「核科学者の拉致疑惑」
日本政府が拉致被害者支援法に基づき、被害者に認定しているのは17人。しかしこれは氷山の一角です。警察が、拉致の可能性を排除できない失踪事案としてリストアップしているのは871人に上ります。警察関係者に取材すると、異口同音に「拉致と認定して事実誤認だった場合、北朝鮮に付け込まれることになるから慎重に捜査している」といいますが、本当でしょうか。真実が明らかになれば不都合なことが警察と政府にあるのではないでしょうか。
2020年から報じ続けている、Tansaの連載「消えた核科学者」はそうした疑念を強くするものです。この連載はさらに取材を重ね、2023年11月15日から再開しています。
1972年3月、動燃(現・日本原子力研究開発機構)のプルトニウム製造係長だった竹村達也さん(当時36歳)が独身寮から失踪しました。捜査にきた刑事は「北に持っていかれたな」と聴取した動燃職員にいいました。警察は北朝鮮による拉致の疑いで長年捜査をしていますが、当時最先端の核知識と技術を持った竹村さんの失踪を伏せてきました。北朝鮮が核兵器の開発に利用するため拉致したとしたら、日本の安全保障に関わる重大事です。
その他にも、原発のロボットアームの研究をし1982年に失踪した河嶋功一さん(当時23歳)、精密機械エンジニアで1988年に失踪した矢倉富康さん(当時36歳)さんら、北朝鮮の核兵器・ミサイル開発に貢献し得る人物で拉致濃厚な人たちもいます。
(警察庁が公表した竹村達也さんの情報が掲載されたウェブページ )
不可解なDNA捜査で疑惑打ち消し
警察が拉致事件の捜査に消極的どころか、葬り去る意図があるのではないかと疑わざるを得ない事案もあります。1984年に甲府市から失踪した山本美保さん(当時20歳)のケースです。
失踪から数日後、免許証などが入った美保さんのセカンドバッグが新潟県柏崎市の海岸から発見されました。セカンドバッグが落ちていた柏崎の海岸は、1978年に蓮池薫さんと奥土祐木子さんが拉致された場所の近くです。
ところが、山梨県警は2004年、美保さんは拉致ではないという「証拠」を発表します。美保さんが失踪してから17日後に山形県遊佐町の海岸で発見された漂着遺体のDNAと、美保さんの双子の妹の美砂さんのDNAが一致したというのです。双子の場合はDNAが同じなので、漂着遺体は美保さんであり、したがって北朝鮮に拉致されたわけではないという理屈です。
問題は、漂着遺体の身体的特徴や所持品が美保さんと全く一致しないということです。DNA鑑定もずさんなものでした。再鑑定のために試料を残しておくのが常識ですが、漂着遺体の骨髄の粉末は使い切っていました。美保さんと美砂さんが、DNAが同じ一卵性双生児であることも確認していません。美砂さんはDNA鑑定を実施することの説明もないまま、血液を提供させられたといいます。
(太平洋に面する茨城県東海村の旧動燃(現・日本原子力研究開発機構))
「親が死ぬのを待っているのか」ー時間との闘い
拉致被害者の家族や、拉致の疑いがある人の家族の親御さんたちは次々に亡くなっています。ご存命の家族も高齢化が進んでいます。2023年10月21日、家族が集まり拉致問題への解決を訴える集会が東京都庁前の広場でありました。我が子やきょうだいの写真をパネルにして首からぶら下げ、集会の参加者に協力を呼びかけていました。本気で拉致問題を進展させる姿勢がみられない政府や警察に「親が死ぬのを待っているのでしょうか」と訴える人もいました。
平穏な日々が突如、断ち切られて大切な人と離れ離れになってしまう。私たちの誰もがその立場になっていた可能性があります。
ひとりでも多く、我が子やきょうだいが再会を果たせるようTansaは事実を明るみに出していくことで貢献したいと思います。各地の現場や拉致の情報がある国への出張費など取材費、リポーターの人件費等のサポートを何卒、よろしくお願いいたします。
Tansaについて
Tansaは、探査報道を専門とする報道機関です。当局発表を右から左に流す「記者クラブ報道」とは違い、暴露しなければ永遠に伏せられる事実を、独自取材で掘り起こし報じます。従来は「調査報道」と呼ばれてきましたが、単なる調査ではなく、膨大な労力と高度な技術が必要なため「探査報道」という言葉を使っています。暴露するのは、政府や企業、犯罪集団組織などが隠蔽する不正です。問題の構造に切り込み、犠牲者や被害者の置かれている状況を変え、将来の被害を防ぐことが目的です。
GIJN加盟の国際ニューズルームとしての強み
Tansaは2017年、探査ジャーナリズム組織でつくる国際的アソシエーション「探査報道ジャーナリズム世界ネットワーク(GIJN)」に日本で初めて加盟し、公式メンバーとなりました。報道機関としては国内唯一の加盟組織です。GIJNには90カ国244組織が加盟しています。国境を越えるテーマでは加盟の報道機関同士で共同取材、発信を行っています。Tansaはこれまで韓国のニュースタパやドイツのCorrective、イギリスのガーディアンなど様々なコラボを実現してきました。今回の拉致問題でもGIJNを生かして取材を進めます。Tansaの記事は、日英2言語で発信しています。
(韓国の非営利独立メディア「ニュース打破」の編集長と)
主な報道実績
2017年:買われた記事 電通と共同通信によるステルスマーケティング
2018年:強制不妊 厚生省の要請で強制不妊手術の件数を競っていた自治体
2018年:製薬マネーと医師 製薬会社から年1000万円超の副収入を得る医師たち
2018年:検証東大病院 心臓治療の患者の医療事故を東大病院が隠蔽
2019年:都営団地の孤独死 年500人超が都営団地で孤独死。英紙ガーディアンとのコラボ
2019年:狙われるDNA 警察が国民の100人に1人のDNAを「被疑者」としてデータベース化
2019年:税金を“JUDGIT! ” 国の5000事業をデータベース化し税金の使い道を明らかに
2020年:高齢者狙う新聞販売 認知症の高齢者にまで押し売りをする新聞販売
2021年:双葉病院置き去り事件 福島第一原発事故で救助が遅れ45人の患者が死亡
2022年:虚構の地方創生 コロナ地方創生臨時交付金の無駄遣いを徹底検証
2022年:公害PFOA ダイキン工業によるPFOA(PFASの一種)汚染の責任を追及
2022年:国葬文書隠蔽 安倍晋三・元首相の国葬に関する文書を岸田内閣が隠蔽
2022年:誰が私を拡散したのか 児童ポルノや盗撮画像ビジネスを支えるGoogle
2023年:保身の代償(共同通信編) 長崎の私立高校生のいじめ自殺と共同通信の保身
受賞歴
2017年:日本外国特派員協会 「報道の自由推進賞」
2018年:反貧困ネットワーク「貧困ジャーナリズム大賞」
2019年:Linked Open Data チャレンジ Japan 2019 アプリケーション部門「優秀賞」
2020年:一社オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構「最優秀賞」/ジャーナリズム支援市民基金「第1回ジャーナリズムXアワード大賞」
2022年:一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ「PEPジャーナリズム大賞&課題発見部門賞」/ジャーナリズム支援市民基金「第3回ジャーナリズムXアワード大賞」
2023年:メディア・アンビシャス「2022年メディア・アンビシャス大賞【活字部門】優秀賞」
なぜサポートが必要なのか
Tansaは、企業や権力から独立した報道機関です。企業からの広告収入は一切受け取りません。権力からの影響を受けず、取材した事実をもとに真実を報道します。
また、経済状況にかかわらず誰もが探査報道にアクセスできるよう、読者からの購読料もとりません。
一方で、深く緻密な探査報道にはお金がかかります。Tansaの記事を支えるのは、主に個人の寄付や財団からの助成金です。
しかし現状では、旅費交通費や資料代などの取材費、メンバーの人件費が不足しています。現在はリポーターも取材の手をとめ、寄付金のサポートを募ったり助成団体への申請を行ったりしている状況です。皆さまからのサポートがあれば、ファクトを掴むための念入りな取材に時間をさくことができます。
予算の内訳
拉致問題の取材現場は国内外の多岐に渡ります。出張費用に主に充当します。被害者家族の高齢化が進んでいるので、まずは今後1年間集中的に取材する費用を募ります。