プログラム・ディレクターが全作品を徹底解説!特別招待作品篇(5)
2022/10/15 11:25
第23回東京フィルメックスは10/29(土)~11/5(土)の8日間に18作品の上映を予定しています。昨日に引き続き、世界の名匠の最新作を上映する特別招待作品の見どころをプログラミング・ディレクターの神谷直希が詳しく解説します。
「ホテル」(ワン・シャオシュアイ監督)
現在の中国映画を代表する監督のひとりであるワン・シャオシュアイの最新作。9月のトロント国際映画祭でワールドプレミア上映されたばかりの作品です。
コロナウイルスによるパンデミックが始まり世界中でロックダウンなどの対策が取られ始めた頃を舞台にしています。タイのチェンマイの少し古びたリゾートホテルに足止めされた何組かの中国人観光客たちの数日間の物語で、そのなかの若い女性を中心に話が進みます。この女性はコミュニケーション能力に長けており、彼女がいろんな人に話しかけたりするなかで、少しずつ波紋が起こり始め、それが徐々に大きくなっていく様が描かれます。ミニマルと言っていいくらいシンプルな作りのモノクロ作品ですが、脚本がとても緻密に組み立てられていて、撮影のフレーミングや編集もすごくいい。リゾートホテルが舞台なのでよくプールのシーンが登場するのですが、気が付いたらとても深いところにまで連れて行かれている――そんな気持ちにさせる作品になっています。
「ナナ」(カミラ・アンディニ監督)※写真は本投稿トップのサムネイル画像参照
昨年のフィルメックスのコンペティション作品「ユニ」に続いて、早くもカミラ・アンディ二監督の新作をご紹介することができるのをとても嬉しく思っています。本作はベルリン映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映され、銀熊賞の最優秀助演賞が出演者のローラ・バスキさんに贈られました。
60年代後半のインドネシアで起きた紛争に巻き込まれて家族を失ってしまったナナという女性が主人公です。ナナは数年後にかなり年上のお金持ちの男性と結婚し、家庭に入って安定した生活を送っているのですが、その環境は彼女にとって新たなる牢獄とも呼べるものでした。良き母、良き妻として家庭を維持していくことを暗黙に期待される一方、夫は浮気を繰り返している。そんな状況のなか、ナナは夫の最新の愛人であるイナという女性の存在に気づき、彼女と対面することになります。思いがけないことに彼女とイナは心の深い部分でつながりを持ち始め、それによって彼女の内面にも少しずつ変化が現れるという物語です。前作にも少しそういう傾向があったかもしれませんが、今回はさらに落ち着いたタッチで、時おりウォン・カーウァイを思わせる色彩のシーンも登場するとても美しい作品です。
貴重な作品ばかりのこの機会、お見逃しなく。チケットは明日10/16(日)発売!(続く)
(文・深津純子)
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