プログラム・ディレクターが全作品を徹底解説!特別招待作品篇(4)
2022/10/14 07:57
第23回東京フィルメックスは10/29(土)~11/5(土)の8日間に18作品の上映を予定しています。世界の名匠の最新作を上映する特別招待作品の見どころをプログラミング・ディレクターの神谷直希が詳しく解説します。
■特別招待作品
オープニング作品「ノー・ベアーズ」(ジャファル・パナヒ監督)
「人生タクシー」「ある女優の不在」などで知られるイランの巨匠ジャファル・パナヒ監督の最新作。9月のヴェネチア映画祭でワールドプレミア上映され、特別審査員賞を受賞しました。ご存知の方も多いと思いますが、パナヒ監督は今年の7月、その数日前に逮捕されたモハメド・ラスロフ監督とモスタファ・アレ・アフマド監督の状況を確認するために訪れた検察局でそのまま逮捕されてしまい、6年の刑期を言い渡され現在も当局に拘束された状態です。
今回の作品では、ふたつの物語が並行して語られます。ひとつはいわゆる「映画内映画」で、パナヒ監督がトルコで新作映画を撮影しているという設定です。監督自身は当局による活動制限で外国に出られないため、トルコとの国境にほど近い村に滞在し、そこからオンラインで映画の演出するという形をとっています。もうひとつの物語は、その滞在先の村にまつわるもの。村の若者同士の恋愛が地元に伝わる昔からの風習によって引き裂かれそうになり、騒動が巻き込き起こります。「これは映画ではない」(2011)から10数年にわたってパナヒ監督が作ってきた一連の自己言及的な映画の流れに位置する作品ですが、おそらくその中でもベストといえるのではないかと思います。ぜひ、スクリーンでご覧いただけると幸いです。
クロージング作品「すべては大丈夫」(リティ・パン監督)※写真は本投稿トップのサムネイル画像参照
クロージング作品は、コンペティションの審査委員長でもあるリティ・パン監督の最新作。今年2月のベルリン映画祭でワールドプレミア上映され、銀熊賞の芸術貢献賞を受賞しました。
イノシシの将軍に率いられた動物たちが人間たちを奴隷として支配しているディストピア的世界が、粘土の人形を使ったユニークなミニチュアで表現されています。動物たちが暴力的なやり方で人間たちを酷使する状況がそのミニチュア世界の中で描かれるのですが、その世界のいろいろな場所にモニターのような画面が設置してあって、そこに人類がこれまで行ってきた様々な残虐行為のアーカイブ映像が表示され、ナレーションの言葉が重なっていく作りになっています。イメージと言葉の洪水のなかで、人類の過去や未来についてじっくりと考えさせられる作品です。
どれも見逃せない作品ばかり。チケットは10/16(日)発売です!(続く)
(文・深津純子)
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