プログラム・ディレクターがコンペ全作品を徹底解説!(2)
2022/10/12 11:57
第23回東京フィルメックスは10/29(土)~11/5(土)の8日間に18作品を上映予定です。
ラインナップ会見では上映作品の見どころをプログラミング・ディレクターの神谷直希が徹底解説!昨日に引き続き、映画の未来を担う俊英が集まるコンペティション部門のご紹介。コンペの第2弾です。
■コンペティション部門(2)
「自叙伝」(マクバル・ムバラク監督) ※この投稿のサムネイル画像
インドネシア出身のマクバル・ムバラク監督の長編デビュー作で、9月のヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で上映され、同部門と批評家週間を併せたカテゴリーの国際映画批評家連盟賞を受賞しました。本作のプロデューサーのユリア・エヴィナ・バラさんは2020年のタレンツ・トーキョーの修了生で、彼女が作品を持ってまた映画祭に戻ってきてくれることを私たちもとても嬉しく思っています。
インドネシアのわりと近い過去、おそらく1990年代頃の軍事独裁体制下の社会が舞台になった作品です。引退後もなお大きな影響力を持っている元将軍と、その邸宅を管理している青年が疑似親子的な関係を築いていく過程を追っています。この青年は、実の父親が刑務所に入っているため不在なのですが、父親代わりの元将軍の寵愛あるいは承認を得ようとして、少々危険な道に足を踏み入れて行きます。そんな青年の目を通して、暴力と欺瞞にまみれた軍事独裁体制の社会のあり方が見えてくる。長編デビュー作ながら懐が深いというか、射程の広い作品です。
「アーノルドは模範生」(ソラヨス・プラパパン監督)
タイのソラヨス・プラパパン監督の長編デビュー作。今年8月のロカルノ映画祭の新進監督コンペティション部門でワールドプレミアされました。実はこの監督もタレンツ・トーキョーの修了生です。参加していただいたのが2015年なので、映画の完成までに時間はかかりましたが、初長編作品とともにフィルメックスに戻って来てくれるのをたいへん嬉しく思っています。
主人公のアーノルドは、数学オリンピックでメダルを取るくらいすごく頭のいい高校生です。彼が大学入学試験に関わる不正ビジネスに関与する過程が描かれるのですが、それと並行する形で、彼の学校の生徒たちが、学校側の抑圧的な教育体制に対して組織的な抗議運動を開始する姿も描かれます。タイで2020年に実際に起きた 「バッド・スチューデント運動」という大きな抗議運動を受けて急遽脚本に取り込んだ作品とのことで、抑圧的な教育体制があり、その背後には当然ながら抑圧的な国家体制があり、それに対する抗議運動の中で模範生と呼ばれる生徒が不正ビジネスに関与していく――そうしたいくつものベクトルを持っている。コメディタッチの描写も多いのですが、根底には確かな怒りも感じられ、その微妙な舵取りも非常に興味深い作品です。
「石門(せきもん)」(ホワン・ジー&大塚竜治共同監督)。
ヴェネチア国際映画祭ベニスデイズ部門でワールドプレミア上映された中国人と日本人の夫婦監督の最新作。2人の作品は「卵と石」(2012年)が大阪アジアン映画祭、「フーリッシュ・バード」(2017年)がアジア・フォーカス福岡映画祭で上映されていますが、フィルメックスでご紹介するのは今回が初めてになります。本作はクレジットの製作国は「日本」となっていますが、全編が中国で撮影され、実質的には中国映画と思っていただいていいかもしれません。
前2作品で地方暮らしの少女を演じたヤオ・ホングイさんが再びリンという名の女性を演じています。彼女は都会に出て来て、フライトアテンダントの学校に通いながら、先のない単発の仕事を次々こなしています。しかし、これからさらに英語の勉強をして頑張ろうという時に妊娠していることがわかり、対応を迫られるという物語です。両監督の過去作品と同様に、今回もひとりの女性の姿を通して現代の中国社会の現実がその暗部も含めて重層的に見えて来ます。カメラは基本的に観察的な視点に徹しているのですが、決して目を逸らすことはしないという強固な意思が感じられ、ある意味でとても容赦のない作品でもあると思います。
鑑賞のご参考にご一読下さい。チケットは10/16(日)発売です!(続く)
(文・深津純子)
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