ねこのしあわせに向き合う(前編) 〜野良ネコを見守る葛藤、保護する葛藤〜
2022/2/24 13:27
彼女に出会ったのは都会の真ん中のフレンチビストロの前でした。スリムで小柄な若い三毛猫で、シェフに時々餌をもらいに来ていましたが、人が近づくと素早く逃げ、飛んでいるセミをジャンプして捕まえる野性味を残したネコでした。
ある日シェフから連絡がありました。
「子ネコをいっぱい産んでる。保護してあげられないか。」
そのころの私は保護施設立ち上げのために奔走しており、施設の内装工事を進めている最中でしたが完成にはまだ2か月近くあったかと思います。
「保護してあげたいけど…。今は飼ってあげる場所がないの。」
子ネコは6匹いました。母ネコは子ネコを隠すためしょっちゅう寝床を変えていたようです。まだ若く体も小さい母ネコの知恵と苦労に感服しましたが、私たちは姿が見えなくなるたびに大騒ぎして生存確認をしました。
1か月が経ち、子ネコたちは大きくなりました。母親についてウロウロするようになり、交通量の多い道路に近い場所だったため私たちはいつもヒヤヒヤしていたことを今でも覚えています。業を煮やして内装業者と相談し、工事中の施設の一部に子ネコを置くことを許可してもらいました。ようやく飼育場所が確保でき、私たちは子ネコを1匹ずつ捕獲しました。捕獲した子は施設で短時間世話をし、その後2匹ずつ3組のご家庭に迎えていただきました。
ですが、残された母ネコが気の毒で胸が痛みました。同時に、避妊手術をしないとまた妊娠してしまうという焦りもありました。
「TNRして地域ネコとして見守るか、保護するか。」
悩みましたが、母ネコだけを過酷な境遇に残すことが耐えられず、保護することに心を決めました。
施設が完成するのを待って、母ネコを捕獲し手術をしたのち、CATS WELCARE入所第1号として迎え入れました。ビストロのシェフにフランス語で宝石を意味する「アガット」という名前をつけてもらって。
アガットは野良ネコでした。捕獲されたときのトラウマもあり、ケージの中から私たちを威嚇しました。私は毎晩仕事が終わると施設に向かい、アガットのケージの前で何時間かを過ごし、話しかけ、心を開いてもらおうとしましたが、なかなか受け入れてはもらえませんでした。
「私はこの子を不幸にしてしまったのだろうか…」
そんな考えが頭から離れず、とても苦しかったです。
後編へ続く。
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