私、水野克己は、小児科医として35年目の2021年9月17日に還暦を迎えました。
同時に迎えた母乳バンクの深刻な資金難と、クラウドファンディング元年。
祈る思いで始めたクラウドファンディングですが、開始から1か月足らずの間に650名以上の方にご支援を頂き、目標金額の60%を達成することが出来ました!
母乳バンク口座に直接ご寄付を頂いた方を合わせると、1150名以上の方からご支援を頂いております。本当にありがとうございます!!
ご寄付を頂いた皆様へのお礼の意味もこめて、バースデードネーションの本文を更新致しました。つたない文章ではございますが、ご覧頂けますと幸いです。
また引き続き、極低出生体重児の大切な「薬」であり「非常食」を届ける私のライフワーク、母乳バンクを、第2の人生と一緒に応援頂けますと幸いです。
母乳バンクは全国のNICUへドナーミルクを供給することで、ドナーミルクで救える赤ちゃんに病院から1人残らず卒業してもらうことを目標としています。
ストーリー
60 = 小児科&新生児科歴35年+医学部6年+19年
ページをご覧頂き、ありがとうございます。
昭和大学医学部小児科教授、日本母乳バンク協会代表理事の水野克己と申します。
この度2021年9月17日に還暦を迎えることとなりました。
私は1987年より小児科医として、35年間の間に50,000人以上のお子様に医師として携わってまいりました。
現在もお子様、赤ちゃんに元気な姿で病院を卒業して貰いたい一心で、診療、研究、小児科医、新生児科医の育成を行っております。
この機会に、あまりお話する機会のない、私の仕事についてご紹介させてください。
興味のある方、いらっしゃるのかな・・・
小児科医&新生児医&教授としての私
私の母校であり、教授(診療科長)を勤めている昭和大学医学部小児科は、大学病院の他に3か所の附属病院があり、それぞれの病院が専門性の高い診療を行っています。
昭和大学病院(旗の台)に設置されている、こどもセンターのベット数は合計50床、NICU・GCUは32床あります。NICUはスーパー周産期施設に認定されており、母体搬送もたくさん受け入れています。小児科医22名、新生児科医6名、専攻医8名が産科・小児外科・小児循環器科の先生たちと一つのチームとして日夜、お子様のケアに当たっています。
その環境の中、私は
✿大学病院の教授回診
教授を先頭に医師や看護師長が病棟の廊下を大名行列のように歩く印象的な姿、ドラマで目にされたことがあるのではないでしょうか?
私も教授としてNICU教授回診行い、入院中の赤ちゃんを診察し、それぞれの赤ちゃんにBESTな治療が何か、チームで真剣に話し合います。
しかしながらNICUに入院されてからの経過を話していると、ついつい赤ちゃんとご両親が頑張った歴史を思い出し、感極まって、目に涙を浮かべてしまうこともあるのです。
✿緊張感あふれる朝のカンファレンス前
入院されている赤ちゃん、お子様の情報共有と、BESTな治療方法を確認するため、病棟ではカンファレンスと呼ばれる会議を行います。カンファレンス室、小児科病棟の奥に設置されております。
そのためカンファレンス室に向かうために、足早に小児科病棟を歩いているとつい可愛いお子様達と目を合わせたくて、足を止めてしまいます。心を通わせているうちに、いつの間にか開始時間を過ぎてしまっていることもあるのです。
✿教育は愛と体験重視型
研修医教育とは別に、医学部の学生も教えております。私の教育、病院実習は愛と体験重視型!
例えば「外来→入院→退院」の場面を私が親御さん役となりシミュレーションを行います。
小児科医が親御さん、緊張する場面ですね。目も泳いでしまうかもしれません。ですが、この体験から処置、検査の意味、内容を確実に分かりやすく伝えるスキルを磨きます。
「採血」も学生にBESTな採血を考えてもらいます。
棚に置かれている4種類の針(針はGの数が小さいほど太くなります)、私がどれが良いか尋ねると、学生の回答は毎年必ず分かれます。
①18G(ピンク)針 ②23G針 ③26G針 ④27G針(一番細い)
正解は②23G!
①18Gは採血を受けるのは血管も細いお子様なので不正解
③④26G・27G針は細すぎて採血自体が困難なので不正解
血液検査という採血の先にある目的の達成と、ただでさえ非日常の環境でストレスを感じているお子様の苦痛軽減、バランスを取ることの大切さを学びます。「さあ、選んだ針で採血しましょう」と言うと、ピンときやすいようですね。
そして何より大切なこととして「コメディカル/メディカルスタッフ」と呼ばれる医師以外のスタッフからの依頼には「私でよければ喜んで」と対応するよう、初日と最終日に必ず指導します。医療は医師だけでできるものではありません。チーム全員がBESTなパフォーマンスを発揮出来るようにする環境が、お子様たちへのBESTな治療へ繋がると信じています。
このように、教授、医師としては赤ちゃん、お子様、親御さんの気持ちに寄り添い、愛と熱意のあるチームプレイが出来るプロフェッショナルを育成しています。
私は未来の日本のヒロイン・ヒーローである赤ちゃんとお子様が、本当に大好きです。
日本母乳バンク協会代表理事としての私
代表理事を勤める日本母乳バンク協会は、2014年7月に日本初の「母乳バンク」として助産師の妻、紀子と2人手弁当で始めました。
場所は昭和大学江東豊洲病院内、主な運営費は自費出版の書籍販売代金とセミナー参加費。
それでもカネソン株式会社、三田理化工業株式会社、株式会社シノテスト様からのご支援もあり、はじめのうちは小規模バンクとしては問題ありませんでした。
2019年には有難いことにドナーミルクを利用する施設が増え、院内バンクの限界を迎えました。
いろいろと探してやっと第2の母乳バンクを千葉県の稲毛海岸に設置しました。とは言えお金がないので家賃8万円の事務所です。リースで低温殺菌器、クリーンベンチ、バイオメディカルフリーザーなど設備も準備し、”さぁーこれから”という2019年10月に千葉を台風19号が襲いました。
数日後、事務所に行ってみるとコバエがたくさん死んでいました。これはダメだ・・・と途方に暮れていた時に声をかけてくださったのがピジョン株式会社様でした。
コロナでいろいろとありましたが、2020年9月にはピジョン株式会社本社様内に日本橋母乳バンクを開設。おかげで全国にドナーミルクを提供できるようになりました。
まだ日本に1か所しかない母乳バンクですが、今後はBCPの観点からも複数の母乳バンクを国内に設置する必要があります。
✿NICUとドナーミルクを卒業した赤ちゃんは全国に!
母乳バンクは日本に1か所ですが、ドナーミルクを使い、NICUから卒業された赤ちゃんは嬉しいことに、今では日本全国にいらっしゃいいます!
私が直接お世話をさせて頂いた赤ちゃんはもちろん、母乳バンクからドナーミルクを届け、他院様でケアを受けて卒業された赤ちゃん達の卒業後の成長を聞くだけで、口元がほころび涙があふれます。
✿日本橋1周年とドナーミルク使用量の増加
嬉しいことに、ドナーミルクの使用が年々確実に増加してきています。
使用量の増加に伴い、豊洲では1台、日本橋母乳バンクオープンの2020年9月には3台から開始した母乳保存用の冷凍庫、2021年8月には7台となり、より多くの母乳を保存出来るようになりました。
また2021年9月には日本橋母乳バンクが無事に1周年を迎えることが出来ました!
✿念願のNICUを卒業した赤ちゃんの親御さんの会を開催!
2021年11月には「第一回ドナーミルクを利用した赤ちゃんの親御さんの会」を開催することができました。赤ちゃんと二人三脚で頑張ったご両親、お顔を拝見するだけで感動で胸が詰まりました。
どうして母乳(ドナーミルク)なの?
栄養価が高く、安全な粉ミルクがある今、当然の疑問だと思います。
母乳にはお母様の免疫という、メリットはありますが、健康な赤ちゃんは粉ミルクでも元気に問題なく育ちます。
それでも母乳バンクが絶対に必要な理由、それは極低出生体重児で生まれた赤ちゃんの特徴にあります。
極低出生体重児として生まれた赤ちゃんは様々な器官が極めて未熟です。肌は血管が透けて見えるほど薄く、皮下脂肪も極めて少ないため、体温や水分を自力で温存することが出来ず、保育器に入る必要があります。
肌と同様に内臓もとても薄く脆いため、丈夫な身体で生まれた赤ちゃんが消化吸収できる粉ミルクの成分を上手に消化吸収することが出来ません。
極低出生体重の赤ちゃんに粉ミルクを与えると、未熟な腸管のバリア機能は低い状態が長引き、また、酵素活性が上昇するまでに時間がかかります。細菌叢にも影響して、壊死性腸炎(腸の一部が壊死してしまう病気)にかかり、残念ながら命を落としてしまう赤ちゃん、命は繋げたものの予後が悪く後遺症の残ってしまう赤ちゃんもいます。
そのため小さな赤ちゃんを出産されたお母様は、まだ直接母乳を吸うことが出来ない小さな赤ちゃんのために、頑張って搾乳をして母乳を赤ちゃんに届けます。
しかしお母様の身体で母乳を作る準備が整う前の出産、ご病気で使用されているお薬の影響、お母様の体調が悪く搾乳よりも治療を優先しなければいけない等、様々な理由がありお母様ご自身の母乳を赤ちゃんに渡せないケースも多々あるのです。
このような場合、赤ちゃんはもちろん、お母様もとても辛い思いをされます。
そのため極低出生体重の赤ちゃんには腸粘膜が萎縮しないよう、出生後できるだけ早くから(生後12時間以内)母乳(ドナーミルク)を与え始めます。母乳の成分により未熟な腸が早く成熟するよう促し、かつ、眼・肺など成熟過程の臓器がお母さんのおなかにいるのと同じように健康に育っていくための栄養をお母様の代わりに届ける!それが母乳バンクから届けるドナーミルクの役目です。
もちろんお母様の母乳が赤ちゃんには“Best”ですが、ドナーミルク、海外では“bridge=つなぎ”と呼ばれることがあります。ドナーミルクはお母様の母乳が準備出来るまでの “つなぎ” 。もし、お母様の母乳がなんらかの理由で与えられないなら、粉ミルクを安全に消化吸収出来るようになるまでの“つなぎ”なのです。
そのためドナーミルクは極低出生体重児にとって代替の利かない、大切な「薬」であり「非常食」です。
母乳バンク、スタッフ一同頑張っております
現在は母乳バンクを応援して下さる方が増え2021年現在では、ご支援頂ける企業様6社、厚生労働省子ども家庭局母子保健課、年間契約をして下さっているNICU31施設のお力添えで、母乳バンクをサポートする助産師9名、事務2名、母乳ドナー登録施設16施設、母乳ドナーの登録を頂いているお母様200名以上までに育ち、2021年4月から半年だけでも200人を超える極低出生体重児(出生体重1500g未満)をサポートすることが出来ました。
祭日の多い月、連休前には、ピジョン株式会社様にお願いし、休日返上で発送準備を進めています。
それでも突然のご出産等でドナーミルクの到着が宅急便では間に合わない緊急の際には、母乳バンクのスタッフが全国の病院に直接ドナーミルクを届けたり、時には私も車を運転してドナーミルクを配達します。
看護師から更に勉強を重ね、助産師になるくらい赤ちゃんが大好きにもかかわらず、ドナーミルクで救える全国の赤ちゃんのために、目の前に赤ちゃんのいない母乳バンクで働いてくれている助産師9名。
休憩時間返上でドナー登録、ドナーミルクの受取、配送等を行ってくれる事務2名、少数精鋭ながら本当に頼りになるスタッフが母乳バンクを運営しています。
どんなに忙しくても、ドナーミルクで救える赤ちゃんのため、みんなが愚痴一つ言わず、愛と熱意をもって日々の仕事にあたってくれていること、本当に感謝しております。
皆様から頂いたメッセージ、バンクスタッフ全員で拝読しています。
疲れた時、忙しい時の心の栄養、本当にありがとうございます。
けれど、大赤字で困っています
その一方、バースデードネーションスタート前の2021年10月。2021年の収支見込を計算したところ採算が合わないどころか、年間収入見込みが1,700万円なのに対し、上半期だけで支出が2,000万円、1,000万円以上の大赤字になってしまう見込みでした。
海外の母乳バンクではランダムに行っている細菌検査ですが、日本母乳バンク協会では安全を追及するために全ての母乳に対して細菌検査を行っており、その費用だけで月60万円支出しています。
サポートいただいている企業様からの講演料は原則バンクへの寄付に含めていただくなど、できる限り母乳バンクの資金繰りが円滑にいくよう努力をしておりますが、それも限界なのかと嘆いておりました。
そんなこんなで、何か新しいことを始めなければ母乳バンクが危ない!との危機感から、今年に入ってクラウドファンディングもTwitterも始めました!
祈るような気持ちでスタートしたバースデードネーション、皆様に話題にして頂いたこと、メディアで取り上げて頂いたことから、開始から1か月足らずの間に650名以上の方にご支援を頂き、目標金額の60%を達成することが出来ました。
母乳バンク口座に直接ご寄付を頂いた方を合わせると、1150名以上の方からのご支援。
皆様のお力添え、本当にありがとうございます。
先にも書きましたが、頂いたご寄付はもちろん、一緒に頂戴した温かなメッセージが私や母乳バンクスタッフの心の栄養となっております。
頂いたドネーションは1円残らず、ドナーミルクを通じ未来のヒロイン・ヒーロー達に届けます。
未来に向けて
年間6,000人以上誕生する極低出生体重児たち、理由があってお母さんの母乳を与えられない小さな赤ちゃん、母乳以外の栄養を受け付けない赤ちゃんたちのためにも、母乳バンクは歩みを止めるわけにはいきません。
全国のNICUへドナーミルクを供給することで、ドナーミルクで救える赤ちゃんに病院から1人残らず卒業してもらう目標も必ず達成出来ると信じています。
必要な赤ちゃん全員に届けるために、赤ちゃんご家族の負担がない取り組みとして続けます。
ワンコインのご寄付、メディアへのアプローチ、スタッフへの激励、話題にして頂ける等、様々なご支援の形、全て心より感謝しております。
今回の皆様からのご支援のお陰で、母乳バンクの関心度、重要性の認識がさらに深まったことを実感する場面が増えてまいりました。
私もまだ見ぬ後任に大赤字活動でなく、継続性の高い活動にしてから引き継げるよう、資金集めも引き続き頑張ります!
母乳バンクが公的な取り組みになるまでの間、ぜひ私と、私のライフワークである母乳バンクへの継続的な温かいご支援を頂けますよう、どうぞ宜しくお願い致します。