なぜ地方女子は東大を目指さないのか
これは、私たち#YourChoiceProject(以下#YCP)の活動における中心的なテーマの一つであると同時に、当団体創設者の江森、川崎が執筆し、2024年に出版した書籍のタイトルでもあります。
私たちはこの問いと長い間向き合ってきました。それは現在地方女子が置かれている状況を調査を通じて正しく認識することに始まり、それを改善するための事業を展開、そしてこの課題の認知を拡大することにまで及びます。
この本はたった一つの単純な問いから始まり、その裏に潜む様々な格差を明らかにしていきます。
出版から二年が経ち、本書は幅広く評価され、私たち#YCPの活動も拡大しました。専門書への引用だけでなく、大学の授業でも使われるようになり、本書の価値が広く定着したと感じます。
その一方で、現在社会の中で大きな注目を集めている女子枠の議論などを見ると、本書はさらに多くの人に読んでいただくべきものであると感じます。本書の必要性は二年の時を経てより高まっています。
そこで#YCPは「『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』をもう一度」のキャンペーンを通じ、本書をより多くの人に認知していただき、この課題の難しさや解決の重要性を知っていただければと思います。
ストーリー
ジェンダーの分野に吹き続ける逆風
私たちが取り扱うこの課題はジェンダーに分類されるものですが、現在の日本はジェンダー課題を解決するのによい環境であるとは言えません。
ジェンダーの分野は一概に極端なものとして認識され、一種のタブーと化している一方で、強いバッシングも受けやすくなっています。この傾向は男子学生の多い東京大学においてはより強くなっており、東京大学はジェンダーについて語ることが最も難しい場所の一つとなっています。
川崎と江森がこの課題に興味を持った五年前もジェンダーは風当たりの強い分野でした。本書の中でも複数回にわたりこの課題を当事者以外に理解してもらうことの難しさについて触れています。
ジェンダーの課題は当事者だけが認知・行動すれば解決するものではありません。社会全体の風土として解決すべき重要な課題と認識され、状況が正確に把握されて初めて解決に向かうものです。私たちは本書をより多くの人に読んでいただくことを通じて、課題の認知を広げたいと考えています。
感覚から理論へ
課題解決のために重要である非当事者にこの課題を理解してもらうには何が必要なのでしょうか。
地方女子が直面する格差を感覚的なものにとどめていては、意見の対立は避けられません。より多くの人に理解してもらうためには調査に基づいた論理的な説明が必要です。
この課題に川崎と江森が取り組み始めた2021年当時、これについて言及していた学術書は少なく、未開拓の分野でした。そこで二人は全国の地方女子やその保護者を対象とした調査を開始しました。
調査を通じて明らかとなった地方女子が抱える格差の要因は様々でした。
「東京の難関大学を志望しない」という課題の裏には、地方女子が進学先を選択する際に偏差値を重視しないこと、同じくらいの成績であっても他の属性に比べ自己評価が低いこと、国家資格などの専門性の高いキャリアを選択する傾向があることなど、多くの要因が隠れていました。
#YCPが実施した調査は表彰を受けるなど幅広く評価されてきました。それだけでなく、より多くの人が私たちの課題意識に興味を持ち、理解をしめしていただけるようになったと二人は本書で述べています。
これこそが本書の最も優れた部分であると我々は考えています。調査を通じた確固たるデータを示すことで、地方女子が抱える格差をより多くの方に共感していただけたと感じています。
東大と日本のジェンダーギャップ
ここであらためて私たちの取り組む課題や活動についてご説明します。
東京大学では全学生の中で女子学生の占める割合が約2割前後で停滞して久しく「2割の壁」と呼ばれています。
さらに、一都三県以外の都道府県から東京大学に進学してくる女子学生は1割未満にとどまっています。


ジェンダーギャップの問題を抱えるのは東大だけではありません。
国としての日本においても深刻なジェンダーギャップが存在しています。
日本のジェンダーギャップ指数は145か国中117位と低迷しており、特に政治と経済の分野において後れているとされています。教育に関しては68位と一見健闘しているように思えますが、これは初等、中等教育(小学校~高校)の充実によるものであり、大学を含む高等教育に注目すると日本の順位は113位です

(内閣府男女共同参画局https://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html )
つまり、日本では小学校から高校までにおいては男女差はかなり小さくなっているものの、大学教育の場面では男女の間で深刻なギャップを抱えていることが分かります。
そして高等教育の場面におけるジェンダーギャップが原因となって政治、経済両分野における日本の後れを引き起こしているのです。
例えば、政治分野におけるジェンダーギャップの例として国会議員が挙げられます。
日本の国会議員における女性議員の割合は約2割にとどまり国際的にも低い水準にあります。また、国会議員の出身大学を見ると東京大学出身の議員が一番多いことが分かります。
国会議員の男女比に偏りがある原因は様々考えられますが、議員を最も多く輩出している東京大学の男女比がもともと偏っていることも一因にあるのではないでしょうか?
地方女子に進路選択の自由を!
NPO法人#YourChoiceProjectは地方女子の進路選択の幅を広げるために、ひいては彼女たちを取り巻く社会そのものを社会課題化して解決するために、幅広く活動しています。
その一つが私たちの活動の中心であるメンタリング事業です。
月に一度、地方の女子高校生と現役の大学生がオンラインで1対1で面談し、学習のこと、学校生活のことや将来設計のことなどを相談できるようになっています。
また、全国にいる似た状況の地方女子の仲間と交流する機会もあります。
地方女子が大学進学・上京を志すときに障壁となり得るのが身近なロールモデルの不在です。
近くに自分と似た環境から首都圏に進学した知り合いがいない場合、本人も親も進学や上京に消極的になってしまう可能性があります。たとえ本人に十分なポテンシャルがあったとしてもです。
私たちはそんな地方女子にメンタリングを通してロールモデルを提供しています。
また、メンタリング事業にとどまらず、様々な事業に積極的に取り組んでいます。
勉強会の企画・実施、ジェンダーに関する基礎知識や社会現象に対しての調査、noteでの記事の執筆・配信など精力的に活動しています。
2024年には首都圏の県人寮への女子学生受け入れに関する実態を調査し、首都圏に設置されている県人寮53舎のうちおよそ6割が男子学生専用寮で占められていることが明らかになりました。


進路選択上のジェンダーギャップがない未来のために
『地方女子はなぜ東大を目指さないのか』のタイトルだけを見ると「地方女子が東大を目指さないことが悪いと言いたいのか」「東京大学に進学することが正しいことなのか」と捉えられてしまうかもしれませんが、そんなことは全くありません。
学生一人ひとりに様々な事情があり、どんな選択が個人にとって最良となるか一概に決めつけることはできませんから、私たちがメンタリングの中で東大をはじめとする難関大学を目指すように強制することは決してありません。
ただ、誰かが進路を選択するときにその選択が生まれついた地域やジェンダーといった自分では変えがたい要素に強い影響を受けているとしたら、そしてそれが原因で進路そのものを諦めてしまうことがあったら、そのような状況は改善されるべきではないでしょうか?
さらに、地方女子が自由に進路を選べるような、進路選択上のジェンダーギャップが解消された世界は必ずしも地方女子だけに利するのではありません。
例えば、「女の子に学歴はいらないでしょ」ということばも「男子は勉強していい大学に」ということばも、両方とも元をたどればジェンダーステレオタイプから生まれたことばです。
ジェンダーステレオタイプに基づいた言葉を向けられるのは必ずしも女子学生だけではありません。
男子学生も女子学生とは違った形でジェンダーギャップの影響を受け、時にはプレッシャーを感じることもあるでしょう。このことは『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』の書籍でも述べられています。
#YourChoiceProjectが目指すのは「全ての学生が、生まれついた地域や生まれ持ったジェンダーに関わらず自由な進学選択・キャリア選択ができる社会」です。
今こそ、『地方女子はなぜ東大を目指さないのか』を読む
2024年、私たち#YourChoiceProjectは「地方女子の大学進学を取り巻く社会課題の解決に向けた取り組み」を評価され令和5年度の学生表彰「東京大学総長賞」を受賞しました。
また、同年、『Forbes JAPAN』「NEXT100 100通りの世界を救う希望」にて、当団体代表川崎と江森が 「今注目すべき『世界を救う希望』100人」 として紹介されました。


では、2026年現在、地方女子を取り巻く環境はどうなったでしょうか?
地方女子が直面していた壁はなくなったでしょうか。
残念ながらまだ、そうではありません。
東大における女子学生の比率は依然として2割前後にとどまり、「2割の壁」は今も存在したままです。
地方女子の割合も改善されたとは言えません。


SNS上では「女子枠」にまつわる議論が過熱し、学歴を扱うコンテンツが度々話題になっています。
しかし、今まさに進路を選ぼうとしている学生たち、とりわけ地方の女子学生の実態はどれくらい知られているでしょうか?
東京大学は2027年に150周年を迎え、新学部College of Designの開設を控えています。
この機会に東京大学と地方女子、そしてこの社会に今一度目を向けてみませんか。
上野千鶴子先生が仰ったように、東大に地方女子が少ないのは自己責任ではないか、大学受験は平等な競争だ、と思っている人にこそ、『地方女子はなぜ東大を目指さないのか』はおすすめできる一冊です。
少しでも地方女子の実態が共有されることを願っています。
さいごに
私たちがここまで活動を続けてこられたのもひとえに応援してくださる皆様のおかげです。
活動の中で決して楽なことばかりではありませんでしたが、皆様と私たちの理念や課題意識を共有することができたことをメンバー一同とても嬉しく思っています。
私たちは現在、メンタリング4期生を迎え一層日々の業務に励んでいるところです。
これからも誰もが自由に進路を選択できる社会の実現を目指して、精力的に活動を続けていきます。
今後とも応援よろしくお願いします。





