「学校に行くのがしんどい」「人と会うのが怖い」——不登校やひきこもりの状態にある人が外の世界へ一歩を踏み出すには、何が必要なのでしょうか。
私たちはこれまでの活動を通じて、「信頼できる人との出会い」が動き始めるきっかけになると感じてきました。実際、海外の研究でも、学校への再参加やひきこもりからの回復において、信頼できる人とのつながりや信頼構築の過程が重要だと報告されています。
しかし、人と人には相性があり、すべての居場所に誰もが信頼できる支援者を配置することは困難です。そこで私たちは発想を変え、信頼できる「人」を用意するのではなく、信頼が自然に生まれる「環境」をつくれないかと考えました。
その挑戦として、滋賀県米原市に、不登校やひきこもり、生きづらさを抱える方が一定期間暮らせるシェアハウスをつくります。
一緒にご飯を食べ、畑仕事や鶏の世話をし、古い家を直す。そんな何気ない日常の積み重ねから、「ここにいていいのかもしれない」という小さな信頼が生まれるはずです。
このクラウドファンディングは、単なるシェアハウスの改修ではありません。
「信頼できる人を探す支援」から「信頼が生まれる環境をつくる支援」へ——その新しい可能性を米原から社会に問いかける挑戦です。
ストーリー
不登校を経験した研究者が、居場所づくりを始めるまで

はじめまして。
一般社団法人チームパッション代表理事の西村勉です。
私は普段、大学で、データを用いてさまざまな環境要因が人の健康やうつ病、孤独リスクに与える影響について研究しています。
研究者としてデータに向き合う一方、仲間たちと耕作放棄地を「ペカンの森」へ再生し、使われなくなった古民家を自分たちの手でDIYしながら、不登校やひきこもり、生きづらさを抱える方々の居場所づくりにも取り組んできました。
私たちが目指しているのは、ただ休むだけの場所ではありません。
自然の中で作物を育てる。
ニワトリを飼う。
薪を割る。
ご飯をつくる。
古民家を自分たちで修繕する。
誰かに与えられたプログラムをこなすのではなく、自分たちの手で暮らしをつくっていく。
その中で、
「ここにいていい」
「自分にもできることがある」
「自分も誰かの役に立っている」
という感覚を少しずつ取り戻していける場所をつくりたいと考えています。
私がこの活動を続ける原点には、自分自身の経験があります。
高校時代、私は不登校とひきこもりを経験しました。当時の私を少しずつ社会につないでくれたのは、近所の植木屋さんとの出会いでした。特別なカウンセリングを受けたわけではありません。
一緒に木に触れ、仕事をし、同じ時間を過ごす。そんな日々の中で、私は少しずつその人を信頼できるようになりました。
そして気がつけば、社会とのつながりを取り戻していました。
一方で、私は同じように深く悩んでいた友人を救うことができませんでした。友人を自死によって失ったことへの後悔と無力感は、今も私の中に残っています。
「自分は戻ることができたのに、なぜ友人を助けることができなかったのだろう」
その問いが、今の活動の原点です。
その後、私は研究者となり、孤独やうつ病などについて研究するようになりました。
しかし、どれだけデータを分析し、論文を書いても、
「研究だけでは、いま目の前で苦しんでいる人を救えていないのではないか」
という葛藤がありました。
そんな中、コロナ禍で、私自身の子どもが学校へ通うことが難しくなる出来事がありました。
「学校へ行けなくても、安心して過ごせる場所があればいい」
そう考え、2021年、京都府綾部市に農地付きの古民家を購入しました。
「ここが私の居場所です」——延べ590人と育ててきたこれまでの活動

その畑に何を植えようかと調べている中で出会ったのが、ペカン(ピーカンナッツ)の木でした。
長い年月をかけて育ち、次の世代へ受け継がれていく木。
この木と一緒に居場所を育てていけば、一世代で終わらない、長く続く居場所をつくれるのではないか。
そう考え、「ペカンの森」の活動が始まりました。
現在、私たちは「10年で10万本」の植樹を長期的な目標に掲げています。将来、ペカンの森から生まれる収益を、居場所の維持や活動へ還元し、寄付だけに依存しなくても継続できる仕組みをつくることが目標です。
人の居場所と、森を同時に育てる。それが「ペカンの森」です。
活動を続ける中で、少しずつ仲間が集まるようになりました。
その一人が、中学校時代に不登校を経験した高校生のAさんでした。
Aさんは通信制高校へ進学してからも、社会とのつながりの弱さや、「自分は何者なのだろう」という悩みを抱えていました。
それでも、滋賀県大津市にある私たちの活動場所まで、片道2〜3時間をかけて何度も通ってくれるようになりました。
畑仕事をする。
年齢の違う大人たちと一緒に汗を流す。
古民家を直す。
自分にもできる役割を見つける。
そうした経験を重ねる中で、Aさんは少しずつ変化していきました。
後に彼女が書いた探究活動のレポートには、学校の外にも自分を受け入れてくれる場所があると知ったこと、年齢の違う人たちと一緒に活動する中で、少しずつ心がほぐれていったことが記されていました。
そして、「ここが私の居場所です」と言ってくれました。

前回のクラウドファンディングでは、126人もの方々から温かいご支援をいただきました。
本当にありがとうございました。
そのご支援をもとに、京都府綾部市や滋賀県大津市で拠点整備を進めてきました。滋賀県大津市木戸では、古民家を皆で修繕し、フリースクール兼シェアハウスとして活用を始めています。
現在、ボランティア登録者数は150名。
これまでの活動回数は200回を超え、延べ590人の方々に活動へ参加していただきました。
さらに、この1年間だけでも延べ265人の方々が活動に参加してくださいました。
「自分も手伝いたい」
「一緒に場をつくりたい」
そんな方々とのつながりが少しずつ広がっています。
また、山口県岩国市や宮崎県日向市でも、ペカンの森づくりが始まっています。
何もなかった荒れ地や使われなくなった古民家が、人と人とが出会い、誰かを信頼するきっかけが生まれる場所へと変わってきました。
そして今回、その次の一歩として米原に挑戦します。
滋賀・米原に、信頼が自然に生まれるシェアハウスをつくりたい

私自身の原点にも、Aさんの変化にも共通していたのは、「信頼できる人との出会い」でした。
ここで、大きな問題が生まれます。
信頼できる人が重要だとしても、すべての居場所に、その人にとって信頼できる支援者を常に配置することはできません。
人には相性があります。資格や経験があるからといって、必ず信頼関係が生まれるわけではありません。だから私たちは、「誰を配置するか」ではなく、「どんな環境なら信頼が生まれるのか」を考えるようになりました。
通所型の居場所では、利用者と他者が一緒に過ごす時間には限りがあります。一方、シェアハウスでは生活そのものを共有します。
朝起きて、「おはよう」と挨拶する。
一緒にご飯を食べる。
誰かが畑へ行く時に、「一緒に行く?」と声をかける。
ニワトリの餌やりを頼まれる。
一緒に買い物へ行く。
古い床を一緒に直す。
疲れた日は、何もせず同じ部屋にいる。
こうした一つ一つは、「支援」と呼ぶほどのことではないかもしれません。
しかし、このような小さな接触が毎日繰り返されることに意味があるのではないかと考えています。
今回、新しい挑戦の場所として選んだのが滋賀県米原です。
米原の古民家を、不登校やひきこもり、生きづらさを抱える方々が安心して滞在できるシェアハウス・居場所へと再生します。
建物は古く、そのままでは共同生活を始めることができません。
そこで、ボランティアや参加者の皆さんと一緒に、
床を直す。
壁を直す。
水回りを整える。
家具をつくる。
掃除をする。
というところから始めます。
完成された施設を一方的に提供するのではありません。
自分たちが過ごす場所を、自分たちの手でつくる。
その過程そのものも、今回の居場所づくりの一部です。
「何もしない」から「少しやってみる」へ——この家で大切にしたいこと
「話さなくても、一緒にいられる」

私たちが大切にしたいのは、会話することだけではありません。
人と話すことそのものが、大きな負担になっている人もいます。
だから、
二人で黙って畑の草を抜く。
一緒に薪を運ぶ。
同じ部屋で、それぞれ違うことをしている。
ニワトリを眺める。
そんな時間も大切にしたいと考えています。
「話さなくても、人と一緒にいられる」
という経験から始まってもいい。
そこから少しずつ、人との距離が変わっていくかもしれません。
「支援される人」から、「誰かに必要とされる人」へ

もう一つ、私たちが大切にしているのが「役割」です。
私たちは、「支援される側」としてだけ扱うのではなく、
「ニワトリに餌をあげてもらえる?」
「畑に水をやってくれる?」
「これを一緒に直してくれない?」
と誰かに頼られる経験を大切にしています。
本当に小さなことであっても、「自分がいないと少し困る人がいる」という経験は、「自分も誰かの役に立てる」という感覚につながるのではないでしょうか。
「引きこもる場所」を変えてみる

不登校やひきこもりの当事者やご家族と接する中で痛感するのが、家庭の中だけで孤立し続けることの難しさです。家族がお互いを大切に思っているからこそ、距離が近すぎることで、本人も家族も苦しくなってしまうことがあります。
そんな時、「引きこもることをやめる」ことを最初の目標にする必要はないのではないでしょうか。
まずは、「引きこもる場所を変えてみる」。
自分の部屋から突然学校や会社へ行くのではありません。
自宅とは違う家へ行き、そこで少し暮らしてみる。
朝起きても、学校へ行かなくていい。
就職活動をしなくてもいい。
でも、誰かがご飯を作っている。
畑へ行く人がいる。
ニワトリが餌を待っている。
そんな環境の中で、
「何もしない」から「少しやってみる」へ。
その小さな変化を大切にしたいと思っています。
「サバイバル×居場所」――何があっても生きていけると思える場所

私たちの活動には、もう一つのテーマがあります。
それは、「何があっても生きていける」という感覚を取り戻すことです。
畑で野菜を育てる。
ニワトリを飼う。
薪で火を起こす。
魚や亀、スッポン、ウナギなど、身近な自然や生き物について学ぶ。
料理をする。
小屋をつくる。
古い家を修理する。
こうした「遊び」と「仕事」の間にあるような活動を、私たちは大切にしています。
学校へ行けなくてもいい。
会社員になれなくてもいい。
社会が用意した一つのレールから外れても、「自分には生きていく方法がある」と思えること。
それが、もう一度社会と関わってみようと思うための土台になるのではないかと考えています。
確かめたい仮説——何気ない日常の関わりが、信頼と行動する力を育てる

私たちは、このシェアハウスでの実践を通じて、一つの仮説を確かめたいと考えています。
それは、共同生活の中で生まれる何気ない日常的な関わりが、人への信頼につながり、その信頼が再び行動する力につながるのではないかという仮説です。
私たちは、次のような流れを想定しています。
共同生活
↓
日常の小さな接触
↓
「この人は大丈夫」という安心
↓
人への信頼
↓
人とのつながり
↓
「ここにいていい」という居場所感
↓
役割・自己効力感
↓
「少しやってみよう」という行動
↓
社会とのつながりが広がる
もちろん、この流れが不登校・ひきこもりの方にも本当に起こるのかは、まだ十分に科学的に明らかになっていません。
むしろ、そこに今回の挑戦の意味があります。
だからこそ、私たちは米原でその可能性を確かめたいと思っています。
参加者の声や変化を丁寧に記録し、将来的には必要な倫理審査や本人の同意を得たうえで研究として検証し、その結果を社会へ還元していきたいと考えています。
資金の使い道——目標100万円で、古民家を安心して暮らせる家に整えます

今回の目標金額は100万円です。
皆さまからいただいたご支援は、滋賀県米原の古民家を、不登校やひきこもり、生きづらさを抱える方々が安心して共同生活できる場所へ整備するために活用します。
目標金額100万円の内訳
- 建物の安全確保・基礎修繕費:約40万円(床・壁・建具などを補修し、安全に利用できる環境を整えます。)
- 水回り・生活環境整備費:約25万円(キッチン・トイレ・洗面所など、共同生活に必要な設備を整えます。)
- DIY資材・工具購入費:約20万円(木材・塗料・工具など、参加者やボランティアの皆さんと一緒に場所をつくるための資材を購入します。)
- 備品購入・資材搬送・車両経費:約10万円(家具や生活備品、資材の搬送などに活用します。)
- 活動運営・消耗品費:約5万円(清掃用品や消耗品など、拠点整備・運営に必要な費用として活用します。)
本プロジェクトはAll-in方式で実施し、目標金額の達成状況にかかわらず計画を進めます。
目標を超えるご支援をいただいた場合は、シェアハウスの生活環境のさらなる整備や、ペカンの苗木の育成・管理など、持続可能な居場所づくりに活用させていただきます。
一軒の古民家から「孤独ゼロ社会」へ——300年先まで続く挑戦

私たちは、この場所を「かえる場所」と呼んでいます。
生き方に行き詰まった時に安心して「帰る」場所。
忙しい社会から離れて、本来の自分に「立ち返る」場所。
使われなくなった土地が、豊かな森へと「還る」場所。
ニワトリや生き物を「飼える・孵る」場所。
そして、新しい人や生き方と出会い、自分を少しだけ「変える」場所。
私たちが最終的に目指しているのは、社会的な孤立や孤独によって誰かが追い詰められない、「孤独ゼロ社会」です。
不登校やひきこもりを「敗北」と考えるのではなく、自分らしく生きる方法を探している途中と捉えられる社会にしたいと考えています。
今回つくるのは、滋賀県米原の一軒のシェアハウスです。
しかし、私たちが本当に確かめたいのは、その先にあります。
人がもう一度誰かを信頼するためには、特別な支援者との出会いだけが必要なのでしょうか。
それとも、誰かと暮らし、食事をし、何気ない時間を共有する環境そのものが、人への信頼を取り戻すきっかけになるのでしょうか。
もし後者であることを示すことができれば、このモデルは米原だけのものではなくなります。
空き家がある地域。
耕作放棄地がある地域。
人と人とのつながりが失われつつある地域。
全国のさまざまな場所で、「信頼が生まれる居場所」をつくれる可能性があります。
私たちが植えているペカンの木は、10年、20年と時間をかけて育っていきます。
人も同じなのかもしれません。
急いで学校へ戻らなくてもいい。
急いで働かなくてもいい。
まず、誰かと一緒にいられるようになる。
誰かを少し信じられるようになる。
自分にも役割があると思えるようになる。
そしていつか、「ちょっとやってみようかな」と思える日が来る。
その小さな変化を、急かさずに待つことのできる場所をつくりたいと思っています。
私たちは、研究だけをしたいのではありません。
また、経験だけを語りたいのでもありません。
現場で生まれた問いを科学で確かめ、その結果をもう一度現場に返していく。
それが、今回の取り組みで実現したいことです。
「信頼できる人を探す」から、「信頼が生まれる場所をつくる」へ。
米原から、新しい不登校・ひきこもり支援の可能性を、皆さまと一緒に育てていきたいと思います。
300年先へ続く希望の種を、一緒に蒔いていただけませんか。
皆さまの温かいご参加とご支援を、心よりお願いいたします。
一般社団法人チームパッション
代表理事 西村 勉

